映画ライターのSYOが『バブル』で感じたSNS事情「周囲の意見に左右されることなく、自分で観て感じたことを大切にしてほしい」
「自分がもう、ヒビキたちと同じ世界にいられないということが、わかっているから」
SYOは普段アニメを観る時には、憧れるキャラクターや自分を同化させるキャラクターがおり、ある意味で作品のなかに入り込んでいることも多いという。しかし、本作では一歩引いた目線で、登場人物たちの織りなす営みを見守っていたそうだ。
「目線でいうと、宮野さんが演じたシンと、ヒビキや彼が所属するバトルクールのチーム、ブルーブレイズのメンバーたちとの間くらいの立ち位置で観ていたと思います。僕の年齢的にもちょうどそのあたりがしっくりくるのですが、そのポジションに立ってみて思ったことが、『どうか幸せになってほしい』ということでした。ちょっと保護者のような気持ちもありますね」と分析。
そのような想いを抱いたのも、作品から感じた“ピュアさ”が影響していると笑みを浮かべる。「自分がもう、ヒビキたちと同じ世界にいられないということが、わかっているからかもしれません。誰かを信じて走りだすことは、自分にはもう起こらないこと。王道な演出だけど、当初はチームメイトなのに溝があった梶さん演じるカイとヒビキがしだいに友情で結ばれていく展開には、少年マンガ的なアツさを感じました。でも、そういう熱は汚辱に塗れた世界に生きる僕には、もう起こりえない(笑)。だからこその“見守る”目線だったのかもしれません」と素直な気持ちを口にし、まっすぐなヒビキたちをまぶしく感じているようだった。
「自分がなにを感じるか、映画の楽しみ方ってそれでいいと思う」
本作のような話題作、注目作ともなれば様々なコメントがネット上にあふれ、そのことが作品を観るか否かの判断材料にもなっている。
このようなSNS事情についても触れ、「作品をおすすめすることを仕事にしているので、矛盾している部分もあるのですが(苦笑)」と前置きしつつ、「皆さんそれぞれが作品を観て、そこで得た感想がすべてだと思っています。自分がなにを感じるか、映画の楽しみ方ってそれでいいと思うんです。それを“発信”するかどうかは、また別の問題かなと」と一石を投じる。
「もちろん、誰かが『おもしろい』と発信しているのを見て、『観に行こう』となるのは、すてきなことです。ですが、誰かのコメントや評価だけを見て作品の良し悪しを判断するのはあまり好ましい傾向ではないかなと思っています。周囲の意見に左右されることなく、自分で観て感じたことを信じてほしいし、大切にしてほしいという想いがあります。そうしないと、自立的な感性が育っていかない」。
そんな想いを踏まえて、SYOに『バブル』を映画館で観るべき理由を尋ねてみると、「『映画館で観ればわかります』ということに尽きます」との回答が。
「映像も綺麗だし、音響もすごくいいし、映画館という没入空間で世界観に入り込む感覚はなににも変え難い時間、体験だと思います。僕はこの映画によって忘れかけていた気持ちを思い出し、心が浄化された感覚があるので『すごく好きです!』と言いたいです」。
続けて、「映画館で観る利点というのかな、劇場でこそ、ストロングポイントが活きてくる作品だと思います。音の連なり、パルクール・アクションの映像のすごさはもちろんですが、僕は作品が持つ“どピュア”なところに連れていってもらい、向き合わざるを得なくなる感覚を味わいました。それは劇場という外界と遮断された空間だからこそ。スクリーン映えもしますし、せっかくなら映画館の大きなスクリーンで音を浴びながら楽しんでほしいと思います」と絶賛。
爽快感ある映像、心を震わす音楽や音響が魅力の『バブル』。それに加えて、SYOが語るように、“ピュアさ”にあふれた世界観によって忘れかけていた淡い感情も思い起こしてくれる。崩壊した東京で、ヒビキたちはなにを感じて日々を生きているのか?彼らの物語をぜひ劇場で確かめてほしい。
取材・文/タナカシノブ