映画ライターのSYOが『バブル』で感じたSNS事情「周囲の意見に左右されることなく、自分で観て感じたことを大切にしてほしい」
「あえて“どピュア”なものにしたところもおもしろかった」
映像やアクションのすごさを力説する一方で、最も心を揺さぶられたのは、繊細に紡がれるヒビキとウタの美しくも儚いラブストーリーだという。ヒビキにしか聴こえない“音”にウタも反応することができ、自然な流れで心の距離は縮まっていく。しかし、ウタにはある秘密があり、やがて避けられない宿命が2人の前に立ちはだかる。
「最近は、毒気のある作品が世の中にあふれていて、特にアニメやマンガの世界にその傾向があります。でも、今回は久々にそうではない作品に触れられた気がしました。やろうと思えば、いくらでも毒気のある作品を作れたはずの布陣なのですが、あえて“どピュア”なものにしたところもおもしろかったですし、大きな挑戦だったんだろうなとも想像できます」と、作品全体から漂う“ピュアさ”がとにかく強く印象に残ったよう。
職業柄、どうしてもシニカルに身構え、悲観的な展開を予想して映画を観てしまうことも多いというSYO。しかし、本作に関しては普段とは違う受け止め方をしていたようで、「『こうなったら世界はもうちょっと美しいんじゃないか』とピュアな方向に気持ちを持っていってくれる作品でした。ストーリーもまっすぐで、とても素直な気持ちで観ることができました」。
「物語の世界に入り込み、ヒビキやウタと一緒に疾走しているような気持ちになれる」
映像に寄り添い、盛り上げる“音”のすごみも大きな魅力だったと説明する。「SE(サウンド・エフェクト=効果音)としての音響、環境音や音楽、セリフが一緒に流れるのですが、そのバランスがすごくよかったです。この作品を劇場で観るべきだと思ったポイントの一つです。物語の世界に入り込み、ヒビキやウタと一緒に疾走しているような気持ちになれるとても微細な(音の)設計をされているという点に感動しました」。
ヒビキを志尊淳、泡を調査する科学者のマコトを広瀬アリスが演じ、荒木作品で重要なキャラクターを担当してきた宮野真守、梶裕貴、畠中祐、千本木彩花、井上麻里奈、三木眞一郎ら、人気実力派声優たちも参加している。そして、ヒロインのウタの声を担当するのは、Z世代から圧倒的な支持を集めるシンガーソングライターのりりあ。だ。
「志尊さんは、めちゃめちゃ上手いと思いました。志尊さんだとまったくわからなかったです。広瀬さんには、ヲタ仲間が好きな監督の作品に出てくれているみたいな感覚で(笑)、すごく好感を持ちました。りりあ。さんも本当にすばらしかったです。この声じゃないとダメだろうと思えるところも絶妙に表現されていて、志尊さんとの化学反応もすごくよかったと思います」。
俳優が声をあてる理由には、作品に生っぽい演技を盛り込みたいからなのでは?とコメント。「その生っぽさが時として生んでしまう画と肉体の“ズレ”みたいなものは、この作品には感じませんでした。そして、僕のような荒木作品ファンからすると『ありがとうございます!』としか言いようがないキャストが並んでいます。ほぼ声優さんの友情出演に近いキャラクターもいたりして、荒木作品常連組の絆が感じられてよかったです」。