トム・クルーズがカンヌ国際映画祭で映画人生を回想「4歳の自分が映画人としての指針となった」
「観客をワクワクさせるためにはどうしたらいいか?頭に浮かんできたのは、4歳の自分の姿でした」
トークショーの後半では、司会者が「『ミッション:インポッシブル』では、危険だとわかっているのに、どうして自らの生命を危険に晒すのか?」と、誰もが聞きたい質問を単刀直入に聞いていた。トム・クルーズの答えは、「ジーン・ケリーに、『なぜ自分で歌うのか、なぜ自分でダンスするのか』とは誰も尋ねないでしょう。ミュージカルをやるからには、自分で踊りたいし、自分で歌いたいものです。これは私の初プロデュース映画です。
パラマウント映画に行って、テレビシリーズの「ミッション:インポッシブル」を映画化したいと言った時、誰もが『やめておけ』と言いました。でも、いままで映画を作ってきて、映画製作とはなにかを学び、自分にもなにかできることがあるのではないかとずっと思っていました。どうしたらアクションで観客を没入させるような映画が作れるかと考え、自分自身がアクションをやることでより接近した場所にカメラを設置できると思ったのです。床を滑る『卒業白書』にしても、海兵隊員を演じた『タップス』にしても、身体性を追求する演技は、私が時間をかけて開発したスキルなのです。曲芸飛行のパイロットを演じ、ヘリコプターを操縦し、ダンスや歌のレッスンも受けました。私がお手本に勉強した(CGなどがない)昔のハリウッドシステムでは、俳優がすべて自分でやるのは当然のことでしたから」というものだった。そして、こう続けた。
「観客をワクワクさせて映画に没頭させるには、どう構築すべきか?そう考えた時に浮かんだのは、4歳の子どもだった自分の姿でした。映画館で4歳の私が観た映画は、冒険心を与え、視野を広げてくれました。たくさんの人生や文化、冒険に興味を持ちました。他人が不可能だと言っても、自分だけは可能性を信じ努力することを学びました。そして、このシリーズで学んだことは、映画を通して観客と対話することができるということです」。
企画者でありプロデューサー、主演俳優のトム・クルーズの言葉は、私たちがなぜ「ミッション:インポッシブル」にこんなにも惹かれるのかをよく表している。彼が映画に懸ける情熱は演技や製作だけに留まらず、映画を通じた親善大使のような存在となっている。製作・出演した映画を世界中で公開しプレミアを行い、現地で映画館スタッフやファンと直接触れ合うことで、映画を通じた対話を試みる。それこそが、子どものころのトム・クルーズが「観光客としてではなく世界中を旅し、様々な国の文化の一部になるような仕事がしたい」と願った未来を、自身の手で掴んだ結果なのだ。
取材・文/平井伊都子