“伝説の女優”リタ・モレノが、60年を経て『ウエスト・サイド・ストーリー』に繋いだ架け橋
巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が長年の夢を実らせ、ブロードウェイ・ミュージカルの名作を再映画化した『ウエスト・サイド・ストーリー』のブルーレイ+DVDセットが発売中だ。本稿では作品をより深く味わうため、1961年に公開された『ウエスト・サイド物語』にも出演した伝説の女優であるリタ・モレノが、前作と本作をつなぐ“架け橋”となったエピソードを紹介していこう。
多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイドを舞台にした本作は、ウィリアム・シェイクスピアの代表的な戯曲「ロミオとジュリエット」を下敷きにした悲恋の物語。プエルトリコ系移民からなる“シャークス”のリーダーを兄に持つマリア(レイチェル・ゼグラー)は、ヨーロッパ系移民からなる“ジェッツ”の元リーダーであるトニー(アンセル・エルゴート)と出会いたちまち恋に落ちる。しかしそれが多くの人々の運命を変える悲劇へとつながることに。
のちに名作『サウンド・オブ・ミュージック』(65)を手掛けるロバート・ワイズと振付家のジェローム・ロビンスの共同監督のもと、同名ミュージカルを初めて映画化した『ウエスト・サイド物語』(61)は、第34回アカデミー賞で11部門にノミネートされ作品賞を含む10部門を受賞。1960年代に全盛を迎える大作ミュージカル映画ブームの火付け役となり、いまなお多くの映画ファンを魅了している。同作でプエルトリコ系移民の“シャークス”のリーダー、ベルトルトの恋人アニータ役を演じ、アカデミー賞助演女優賞を受賞したのがモレノだ。
プエルトリコで生まれ、幼い頃にニューヨークに渡ると13歳でブロードウェイデビューを果たしたモレノは、数多くの映画や舞台、テレビなどで活躍。1977年にエンタメ界の4大栄誉であるEGOT(アカデミー賞、トニー賞、エミー賞、グラミー賞)完全制覇を達成し、2019年には“放送界のピューリッツァー賞”といわれるピーボディ賞を受賞。90歳を迎えたいまなお現役で輝き続ける彼女は、『ウエスト・サイド・ストーリー』では主人公のトニーが働く店の主であるバレンティーナを演じ、自ら製作総指揮も兼任している。
脚本を務めたトニー・クシュナーの配偶者であるマーク・ハリスが思いついたアイデアにスピルバーグ監督が賛同したことから、バレンティーナという新たに創りだされた登場人物として60年ぶりにこの物語に関わることになったモレノ。レジェンド女優への敬意をあらわすかのように、クシュナーはバレンティーナのバックストーリーをしっかりと練り上げたとのことで、25ページにも及ぶそれは「ちょっとした小説並み」のものになったのだとか。
モレノが架け橋となったのは、作品と作品だけではない。1961年版でモレノが演じたアニータ役を、この2021年版で演じたアリアナ・デボーズに直接受け継いだ。スピルバーグ監督は「2人が一緒に仕事をしたり喋ったり、笑い合っている姿は本当にすばらしいものでした。リタはアリアナの演技を享受し、アリアナはリタから受けたインスピレーションを表出していました」と振り返る。そしてデボーズは、第94回アカデミー賞で助演女優賞を受賞。60年前のモレノと同じ、映画界の頂点に立つこととなった。
今回MOVIE WALKER PRESSが入手した、ブルーレイ+DVDセットの発売に合わせた特別映像のなかには、モレノが本作に込めた想いを語るインタビュー映像と撮影現場での様子、さらに撮影監督のヤヌス・カミンスキーやスピルバーグ監督らがモレノへの敬意を語る姿が収められている。
トニー役を務めるアンセル・エルゴートとの撮影現場でのやり取り、さらに1961年版でトニー役を演じたリチャード・ベイマーがスタジオを訪問しに来た際の様子など、まさに『ウエスト・サイド物語』と『ウエスト・サイド・ストーリー』がモレノによって繋がっていることを強く感じさせる貴重な映像に。
1961年版を観たことがある人はもちろん、観たことがないという人も、伝説の女優リタ・モレノの名演に注目しながら、60年経っても色褪せない楽曲とパワフルな振り付け、いまの時代にも通じる普遍的なストーリーを堪能してほしい。
文/久保田 和馬