ド肝を抜かれる圧巻のステージ!湯浅政明『犬王』が“熱狂”を生みだす3つのポイント
アヴちゃん&森山未來が圧巻のパフォーマンスを披露!
そして圧巻のステージに欠かすことができないのは、犬王と友魚の歌声。マイクのない室町時代に、京都の端々までその名を轟かせ、全国へと評判を広げスターダムを駆け上がっていく2人。自分の体の特徴を活かし、人々が見たことのないステージを繰り出す犬王役にはカリスマ的人気を誇るバンド「女王蜂」のボーカルで、多数のアーティストに楽曲提供もするアヴちゃん。そして民衆を盛り上げるパフォーマンスを披露する友魚役は、俳優やダンサーなど表現者として独自の世界観を築いてきた森山未來。
実際に表現者としてパフォーマンスで人々を魅了してきた2人だからこそ、犬王と友魚をリアルな生命力にあふれたキャラクターに仕上げることができたといえよう。またアヴちゃんは劇中の歌唱パートの作詞とディレクションにも参加。湯浅監督の世界観のなかでアーティストとしての能力をいかんなく発揮しており、多くの観客から絶賛の声が寄せられている。
友情のドラマとリアルな時代考証も必見!
熱狂のステージをよりエモーショナルなものに仕立て上げるのは、犬王と友魚の友情物語だ。異形に生まれた能楽師と盲目の琵琶法師。社会的に弱い立場にある2人が偶然出会い、逆境をものともせずにそれぞれのステージで才能を開花させていくストーリーには、社会現象を巻き起こしたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」など、原作の魅力を引きだしながらタイムリーな社会問題を落とし込んできた野木亜紀子の脚本家としての手腕が余すところなく発揮されている。
野木は本作でアニメ作品初挑戦となるが、600年の時を超えた2人の友情は、まさにアニメでしか描けないスケールを感じさせる。さらに時代劇の枠を超えた破天荒なステージ演出やド派手な衣装については、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」などにも参加している佐多芳彦が歴史監修を務めている。どこか“室町時代に存在したかもしれない”という説得力をたたえた細やかな設定にも注目だ。
掴みからディテールまでがこだわり抜かれ、何度も観たくなるポイントがいたるところに散りばめられた本作。実在しながらも謎に包まれた能楽師である犬王が目の前に生きて現れたかのようなリアルさに、当時の民衆さながら熱狂してしまうこと請け合いだ。是非とも犬王と友魚が魅せる、圧巻のステージに酔いしれてほしい。
文/久保田 和馬