集英社初の作品名部署「ドラゴンボール室」、室長が語る鳥山明の“二面性”と「DB」の世界戦略

インタビュー

集英社初の作品名部署「ドラゴンボール室」、室長が語る鳥山明の“二面性”と「DB」の世界戦略

人気アニメシリーズの4年ぶり新作となる映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(公開中)。MOVIE WALKER PRESSでは、本作のエグゼクティブプロデューサーも務めた集英社「ドラゴンボール室」室長の伊能(いよく)昭夫にインタビュー。全世界興収135億円超えの大ヒットを記録した前作『ドラゴンボール超 ブロリー』(18)の制作中に生まれたという本作の構想過程、原作者・鳥山明の携わり方やクリエイティビティについて。そして今後「ドラゴンボール」というコンテンツが目指す方向について尋ねた。

本作のエグゼクティブプロデューサーであり、集英社「ドラゴンボール室」室長の伊能(いよく)昭夫
本作のエグゼクティブプロデューサーであり、集英社「ドラゴンボール室」室長の伊能(いよく)昭夫

2016年に誕生した「ドラゴンボール室」は、集英社内で初めてとなる作品名を冠にした部署。立ち上げの目的について「最初はよくわかりませんでした(笑)」と笑う伊能。「『ドラゴンボール』という作品をどのように継続していくのか。特に鳥山先生にどのように作品に関わっていただくのかをハンドリングするのが大きな目的。特に映画やゲームは完成までに数年かかるのが当たり前なので、次の展開、またその次の展開と引き継いでいけるようにする部署という気がします」と解説する。

「海外での日本アニメは大衆的な人気ではなかったので、より広いマーケットへ出していこうと考えました」

最強師弟コンビ、ピッコロ&悟飯が活躍する本作
最強師弟コンビ、ピッコロ&悟飯が活躍する本作[c]バード・スタジオ/集英社 [c]「2022 ドラゴンボール超」製作委員会

この6年で成し遂げたことについて「『ドラゴンボール』は映画が出来上がっておしまい、という世界ではありません。その後、海外に展開したり、ゲームをはじめとする商品化にも取り組んでいきます。それが現在大きな仕事としていることの一つです」と、『ドラゴンボール』ならではの展開に触れる。立ち上げ時には「海外展開」も重要なキーワードとなっていた。「日本のコンテンツは海外で人気があるとされているけれど、実際にはどのように人気なのか、視覚化されて意識しにくいんです。最近になってようやく数字として出てきた部分はあっても、どんな人にどのように人気なのかは明確に分かっていない印象です。ですから、世界中のアニメやコミックのイベントに顔を出して、実際の人気を肌で感じる機会を設けました。誤解を恐れずに言うと、もっともっと人気があっても良いと感じました(笑)。イベントには日本のコンテンツを好きな人が集まっているので、一定数の人気を感じることはできます。でも、広く大衆に人気があるかというと、そうでもないなという印象を受けました」と素直に語る。

日本発のアニメや漫画は、アメリカやフランス、ドイツなどで人気が高いイメージがあるが、日本で感じる人気度とのギャップはあるのだろうか。「熱狂的に支持してくれる方も一定数いると実感しています。そういった状況を踏まえたうえで『ドラゴンボール超 ブロリー』は、より広いマーケットへ出していこうという思いで作り、海外でもいままでのコンテンツとはちょっと違う規模の数字を残すことができました」と前作制作の経緯を明かす。結果、『ドラゴンボール超 ブロリー』は北米興行ランキングで初日1位を記録、最終的に北米で3000万ドル以上を稼ぎ出すヒットとなった。この成功が『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』(20)や『劇場版 呪術廻戦 0』(21)など、近年北米でも興行的に成功を収めた作品に影響を与えたと言えるだろう。


超戦士たちの究極のバトルが展開!
超戦士たちの究極のバトルが展開![c]バード・スタジオ/集英社 [c]「2022 ドラゴンボール超」製作委員会

海外での反応を肌で感じるなかで、日本コンテンツが“次にくる国”はどこだと考えているのだろうか。「アメリカ、フランスあたりは規模も圧倒的に大きいので、そこを外すと大きな結果には繋がらないと考えています。ヨーロッパは国によって反応や求めていることに違いがあるので、ポテンシャルと言う意味でいま一番期待できるのは南米です。熱狂的なファンがかなりいますし、まだまだ行き届いていないところもあり、求められる部分があるなら、公式として動くべきなんだと気付かされました」と積極的にファンのニーズに応えていくことの必要性に触れる。

海外展開について、鳥山から具体的なリクエストはないという。「歴史のある作品で早い段階から海外のファンがついてくれたことには、すごく感謝されています。特にフランスは作家を非常に大切にする国で、“ぜひ先生に賞を”というお声がけもたくさんいただきます。そういった状況に感謝しつつも、謙虚に“なんで、こんなにファンがいるのか分からない”ともおっしゃっています(笑)。先ほども触れたように、具体的な数字で可視化できているわけではなかったので、実感が持てないのだと思いますが、ことあるごとにファンの方には感謝を口にされています」と鳥山の様子を明かした。

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