“ライバル”濱口竜介監督も激賞する『わたしは最悪。』、ヨアキム・トリアー監督が自虐的タイトルの理由を明かす
第74回カンヌ国際映画祭で女優賞を獲得し、第94回アカデミー賞では『ドライブ・マイ・カー』としのぎを削った『わたしは最悪。』が公開中。『オスロ、8月31日』(11)、『母の残像』(15)、『テルマ』(17)で知られるヨアキム・トリアー監督が手掛け、各国の映画祭で19の受賞&101ノミネートという自身最高の記録を叩きだした驚異の一作。第94回アカデミー賞ではノルウェー代表として国際長編映画賞、脚本賞にノミネートされた。
リチャード・カーティス監督やポール・トーマス・アンダーソン監督、さらにはアカデミー賞国際長編映画賞の“ライバル” 濱口竜介監督も絶賛した異色ラブストーリーである本作は、学生時代は成績優秀でアート系の才能や文才もあるのにも関わらず、これといった道を見つけることのできないユリア(レナーテ・レインスヴェ)が、普遍的な人生の不条理と対峙しながら、浮遊するかのようにオスロの街で生きていく姿を描く。人生の主人公になりたいと願い、もがく彼女がたどり着いた先にあるものとは…。
MOVIE WALKER PRESSでは、トリアー監督に単独インタビューを実施。浮遊するように街を、人生をさまようヒロインの姿には日本人も共感必至の本作。その根っこにある、北欧と日本の歴史の共通項などを語ってくれた。
「濱口監督との間では“北欧生まれの車が受賞した”というジョークが生まれた」
「第94回アカデミー賞でのノミネートは、とにかく最高の出来事でした。これまでずっと一緒に作品を作ってきた共同脚本のエスキル・フォクトとノミネートされたのもうれしかった。そして『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督や『The Hand of God』のパオロ・ソレンティーノ監督とはほかの映画祭でも顔馴染みになっていたので、より仲良くなることもできました」とトリアー監督は授賞式当日の心境を振り返る。
賞レースの同志であり、ライバルであった濱口監督は本作の日本公開にあたり「好シーンを連発する恋愛映画の傑作」と激賞コメントを寄せている。トリアー監督は「濱口監督とはほかの映画祭でも何度か一緒に戦い、僕が勝つこともありましたが、ほとんどは彼が勝っていました(笑)。でも『ドライブ・マイ・カー』に登場する赤い車サーブ900ターボは僕の地元生まれの車なので、2人の間では“北欧生まれの車が受賞したということだ!”というジョークが生まれました」と異才同士のやり取りを明かす。
視点次第では共感を得にくそうなユリアというキャラクターを、キュートかつポジティブに演じて現代のアイコン的女性に昇華させたレインスヴェは、これが映画初主演。『オスロ、8月31日』にセリフ一行程度の役柄で起用した際に、トリアー監督はレインスヴェにただならぬセンスを感じて「彼女は大物になる!」と確信したという。しかしその才能に反してなかなかチャンスに恵まれなかった。ならば「当て書きで作ってしまえ!」と完成したのが本作。まさにレインスヴェなくして生まれえなかった運命的な作品だ。
蓋を開けたら、第74回カンヌ国際映画祭女優賞受賞という快挙。「レナーテの才能は確信していたので、最後にカンヌの女優賞というすばらしいデザートをもらうことができてうれしかったです。いまでは彼女はファッションアイコンとなり、世界中を飛び回っています。アメリカ映画への出演も決まっていますが、いわゆる客演という形では終わらず、しっかりとしたキャリアを築いていくはずです」とレインスヴェのさらなる飛躍を期待する。
レインスヴェの“最悪”ならぬ“最高”の理由については「画面に映っただけでクスッとさせる稀有なユーモアの資質と、深い心のドラマをカメラ越しに伝える力も備えている。もろさや悲しさ、そしてコメディという両極端を表現できる力を持っている部分にすごさを感じます」と分析する。