DCドラマ「ピースメイカー」は居場所をなくした男への救済措置的作品?「スーパーマン」でも「バットマン」でもなく「スースク」を選んだジェームズ・ガンの”愛情”
「なんだ、こりゃ!」
ドラマ「ピースメイカー」のオープニングを事前知識なしで見せられたら、絶対そう言いたくなるはず。なぜなら1980年代にアメリカで一世を風靡したグラムメタルにしか聴こえない(実はノルウェーのハードロックバンド、ウィグ・ワムが2010年に発表したナンバー)楽曲に合わせて、(おもに中年の)男女たちが無表情でTikTok動画のようなダンスをひたすら踊りまくっているのだから。しかも中心にいるのはWWEのプロレスラーから映画スターに華麗なる転身を遂げたジョン・シナではないか!なぜ彼がノリノリで踊っているのか?それを理解するには、まず2021年に劇場公開された映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(以下、SS)について説明しなければいけない。
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の最低男に光を当てたジェームズ・ガンの愛情
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズの監督として知られていたジェームズ・ガンが、DCエクステンデッド・ユニバース(以下、DCEU)の一作として撮った『SS』は、DCEUのヴィラン(悪役)たちが、恩赦や減刑と引き換えに危険なミッションに挑まされるというアクションムービーだった。
登場したヴィランは、単独主演作もある人気者ハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)を筆頭に、最強のスナイパー、ブラッドスポート(イドリス・エルバ)や、両腕から水玉を放出するポルカドットマン(デヴィッド・ダストマルチャン)といった、凶暴だけど魅力的なキャラばかり。しかし、そんななかにあってジョン・シナ扮するピースメイカーだけはいいところなし。敵を殺すことをまったく躊躇しないばかりか、作戦遂行のために仲間まで手にかけようとするなど、クソっぷりを発揮していたのである。そんな最低男を主人公にしたドラマを作ることを、ガンはコロナ禍のロックダウン下で突然思いついたという。理由は「彼の物語だけが終わっていないから」。
そもそもガンがDCEUに誘われたのは、Twitterにおける過去の不謹慎なジョークが問題視されて、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」第3作の監督を一時解雇されたことがきっかけだった(のちにキャストやファンの嘆願によって復帰)。ガンの才能を高く評価するDCEUの親会社ワーナーブラザースは「好きなDCコミックをどれでも映画化していい」とまで申し出たというが、ガンは「スーパーマン」でも「バットマン」でもなく『SS』を選んだ。世間から居場所などないと裁きを受けた人間が、一発逆転を賭ける作品を撮ることが、過去の清算にふさわしいと信じたからだろう。だからこそ彼は『SS』のヴィランたちを愛情込めて描いたのだ。そんな人物がピースメイカーだけを見捨てるわけがない。