好きにならずにいられない。『エルヴィス』で蘇る“キング・オブ・ロックンロール”、その伝説の数々
音楽という枠を超えた、カルチャーアイコン
そしてエルヴィスと言えば、多くの人がイメージするのは、あの大きなもみあげとヘアスタイル、そしてステージ衣装だろう。前髪を額の上で高くまとめ、ポマードやワックスを固める“ポンパドール”、そして後頭部を固めて中央に縦筋を入れる“ダックテール”は1950〜60年代に男性たちの間で人気に。現在はリーゼントと呼ばれるのが一般的で、ヤンキーファッションの一部として受け継がれている。衣装は、1970年代にラスヴェガスのショーなどで多用した、肉体にピタリと張り付き、胸の部分がはだけたジャンプ・スーツが、エルヴィスのトレードマークとなった。中でも全身真っ白の生地に宝石を散りばめたジャンプ・スーツは、音楽史上“最高のコスチューム”のファン投票で1位に選出(イギリス大手デパート、ウルワースによるランキング)。ビジュアルにこだわったそのスタイルは、フレディ・マーキュリーら後の多くのアーティストにインスピレーションを与えた。エルヴィスは音楽という枠を超えた、カルチャーアイコンなのである。
表現者としての欲求は、俳優業にも向かった。もともとジェームズ・ディーンに憧れと敬意を抱いていたエルヴィス。ジミーの主演作『理由なき反抗』(55)のセリフをすべて暗記するほどで、2人は私生活でも仲良くなり、エルヴィスがジミーにバイクをプレゼントした逸話もある。エルヴィスの映画デビュー作が、ジミーが亡くなった翌年、1956年の『やさしく愛して』。ここから1969年まで、年2〜3本のペースで主演映画が製作され続ける。エルヴィスはハリウッドでもトップクラスのスターとなったのだ。
出演4作目の『闇に響く声』(58)はジェームズ・ディーンのために書かれた脚本で、その死によってエルヴィスにオファーされたという“因縁”も。ただその多くでは、エルヴィスの歌手の側面もフィーチャーされ、『監獄ロック』(57)、『ブルー・ハワイ』(61)のように主題歌とセットで話題になったり、劇中で何曲も歌うシーンがあったりと、“歌う俳優”という扱いだった。その結果、公開時は注目されつつも、エルヴィスの演技が評価されて傑作として残るものは、ほとんどなかった。むしろライヴツアーやファンの熱狂を収めた1970年のドキュメンタリー『エルビス オン ステージ』が“エルヴィス映画”の代表作として世界中のファンに愛された。
映画とエルヴィスの関係としては、歴史に残るアイコンとして現在に至るまで、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)や『ミステリー・トレイン』(89)、アニメの『ボス・ベイビー』(17)など数え切れないほどの作品に登場。現在公開中の『トップガン マーヴェリック』で注目が集まったヴァル・キルマーも『トゥルー・ロマンス』(93)でエルヴィスの“幻”の姿を演じている。