ポール・トーマス・アンダーソン監督が語る、映画を作り続ける理由「映画が脳裏から離れたことはない」

インタビュー

ポール・トーマス・アンダーソン監督が語る、映画を作り続ける理由「映画が脳裏から離れたことはない」

リコリス・ピザ』(公開中)は、1970年代のロサンゼルス近郊の街、サンフェルナンド・バレーを舞台に、子役として活動している早熟な少年ゲイリー(クーパー・ホフマン)と、カメラマンアシスタントのアラナ(アラナ・ハイム)の恋模様を描きながら、彼らの大人になる一歩手前の風景が映し出されていく。ポール・トーマス・アンダーソン監督は、日本での公開を前にオンラインでの独占インタビューに答えてくれた。

偶然に出会う高校生のゲイリーとカメラマンアシスタントのアラナ、2人のすれ違い、歩み寄っていく恋模様を描く
偶然に出会う高校生のゲイリーとカメラマンアシスタントのアラナ、2人のすれ違い、歩み寄っていく恋模様を描く[c] 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

「アラナ・ハイムとの仕事のなかで、20年前に見た風景が再浮上して、本作が生まれました」

アメリカで『リコリス・ピザ』が封切られたのは2021年11月26日。感謝祭の週末からクリスマスまでの1か月間はロサンゼルス1館とニューヨーク3館のみで70mmフィルムを用いて上映されたのちに、全米の映画館で拡大公開された。ロサンゼルスでの上映館は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のすぐ近くにあるウエストウッドのリージェンシー・ヴィレッジ・シアター(以下、ウエストウッド・ヴィレッジ)。1930年代に建てられたスパニッシュ建築の美しい劇場で、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)のなかでシャロン・テイト(マーゴット・ロビー)が自身の出演作を観に行ったブルーイン劇場の隣にある。スパイク・ジョーンズが監督したファットボーイ・スリムの「Praise You」のMVは、2館の劇場の前で撮影されている。

ロサンゼルスでの『リコリス・ピザ』の上映館、ウエストウッドのリージェンシー・ヴィレッジ・シアター
ロサンゼルスでの『リコリス・ピザ』の上映館、ウエストウッドのリージェンシー・ヴィレッジ・シアター撮影/平井伊都子

ロサンゼルスで公開された当時、劇場に隣接されたピンボールパレスには、70年代のロサンゼルス近郊を描いた『リコリス・ピザ』の空気が見事に再現されていた。

――この映画を、公開後すぐにウエストウッドの映画館で鑑賞しました。パンデミック以来劇場から足が遠のいていた観客が戻ってきているような熱気に包まれていました。

「どうもありがとう。ピンボールパレスは楽しかったですね。ウエストウッド・ヴィレッジで独占的に上映するのは、僕のアイデアでした。子どもの頃からずっと通っていた劇場で、とても大切な場所です。限られた劇場で独占的に長い期間上映するのは、いまの劇場配給システムとは完全に反するやり方です。どんなに小さなインディペンデント映画でも、たくさんの劇場で一瞬だけ公開して、すぐに消えてしまうのです。そこで、あのような美しい映画館で、すばらしい映像と音響で独占的に上映し、隣に小さなピンボールパレスを作ることを思いつきました。ほんの数か月前のことですが、とてもよい思い出として残っています」

【写真を見る】まるで『リコリス・ピザ』のワンシーン!LAで公開時に劇中の雰囲気を完全再現したピンボールパレス
【写真を見る】まるで『リコリス・ピザ』のワンシーン!LAで公開時に劇中の雰囲気を完全再現したピンボールパレス撮影/平井伊都子


――この映画のもととなったアイデアはなんだったのでしょうか。

「20年ほど前に、近所の中学校の卒業アルバムの撮影をしている時に、カメラマンアシスタントの女の子にちょっかいを出している男の子の姿を見かけました。その視覚的な印象がとてもいいものとして残っていたんです。熱心だけど迷惑な男の子とちょっとクールな女の子の、ありえない関係とありえないロマンスが。その時は特に書き留めてもいなかったけれど、アラナ(・ハイム)と長年のコラボレーションを続けるうちに、『あのシーンを実際に演じられる人がいる』と、あの時の風景が再浮上してきました。アラナのためにこの作品を書くことができるんじゃないかと思ったんです。彼女は、たくさんの可能性を引き出してくれました」

アラナ役のアラナ・ハイムは本作で映画デビューを果たした
アラナ役のアラナ・ハイムは本作で映画デビューを果たした[c] 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

――なるほど。20年間残り続けていたイメージが浮かび上がってきたんですね。

「男の子と女の子の間に生じるダイナミズムを表現するというのが最初のアイデアで、そこに長年にわたってサンフェルナンド・バレーで言い伝えられている、ウォーターベッドの店やピンボールパレスの話などを入れてみようと思いました。2人の物語が、そういった埋もれてしまっているエピソードを受け入れる“ホーム”となったんです」

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