ポール・トーマス・アンダーソン監督が語る、映画を作り続ける理由「映画が脳裏から離れたことはない」
「西島秀俊は日本のハンフリー・ボガートのようで、いろいろなことを物語れる俳優」
――この映画のキャスティングについて、主演のアラナ・ハイムとクーパー・ホフマンについては数々のインタビューで聞かれていると思うので、日本人俳優のキャスティングについて聞かせてください。ミズイユミ、安生めぐみの2人の日本人俳優が、日系アメリカ人ではなく、日本からアメリカに来て俳優をされている方々だったことに感動しました。
「彼女たちの演技はすばらしかったです。キミコ(安生めぐみ)という役名は、僕の義理の母(ジャズ・シンガーの笠井紀美子)からもらっているので、おっしゃる通り、日本から来た俳優を探してもらいました。キャスティング・ディレクターのカサンドラ・クルクンディスは最高の仕事をしてくれましたし、彼女たちもすばらしい演技をしてくれました。彼女たちとプレミアで再会した時、とても喜んでくれていたのが印象に残っています」
――キミコ役の安生めぐみさんが『ドライブ・マイ・カー』の主演の西島秀俊さんと会った時、アンダーソン監督の演出についてたくさん聞かれたそうです。
「オスカーのキャンペーンで、(監督の濱口)竜介とは何回か会っています。アカデミー賞の前々日くらいに一緒に食事もしました。オスカーのような賞レースは本当に奇妙な感覚を与えてくれます。『ドライブ・マイ・カー』に出ている役者のほかの作品での演技はほとんど知らないのにも関わらず、彼らに実際に会って顔を見ると、映画の延長にあるキャラクターのように見えたから。
『ドライブ・マイ・カー』で人を殴る俳優を演じた岡田将生と実際に会った時に『やばい、いい人そうに見えるけど殴られるかも』と思っちゃったんですよ(笑)。それくらい役にはまっていました。そして主演の西島秀俊は、日本のハンフリー・ボガートのようですね。なんていい顔をしているんだろう。いろいろなことを物語ることができる、とてもハンサムだけど特別な、表情豊かな俳優だと思いました。彼の演技には本当に感動したんです」
「アニメからマーベル映画まで、子どもたちとあらゆる映画を一緒に観ます」
――賞レースと『リコリス・ピザ』のプロモーションがひと段落して、いまはどんなふうに過ごされていますか?
「家族と一緒に過ごしながら、新しい作品を書いたり、ドジャースの試合を観に行ったりしています。子どもたちのために時間を使っています。学校が終わって夏休みになったら、どこかへバケーションに行けたらと思っています。僕の子どもは上が16歳で一番下が8歳なんですが、よく映画に連れて行きます」
――お子さんと一緒にどんな映画をご覧になっているのか、とても興味があります。
「アニメからマーベル映画まで、なんでも観ますよ。子どもがいる家庭はアニメを観る機会が多いと思うけど、僕らはワーナー・ブラザースの古いアニメをよく観ます。先日は、娘と一緒に『スパルタカス』の70mm上映を観に行きましたし、夜は子どもたちのお気に入りのウディ・アレンの『ラジオ・デイズ』を観たりしています。あとはアニメの『バッドガイズ』を観に行く約束をしているし、今夜は長女と『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』を観に行って、ウディ・アレンの『夫たち、妻たち』を観ようと話しています。こういう感じで、あらゆる映画を一緒に観ています」
――最後の質問になりますが、いま準備している作品はありますか。
「まだわからないけれど、2、3本はいい形になりそうなものがあります。あまり長い時間をかけずに前に進めるといいんですけど。とてもいい具合になってきているので、すぐに次の映画に取り掛かれるといいですね。来年には撮れたらいいなと思っていますが、映画の撮影準備は時間がかかるんです。映画を撮るには、自分がまだその気になっていない状態でも、来年その気になっている確証がなくても準備を始めなくてはいけないものだから。実はまだ、この数年の疲れを癒しているところなんです。『リコリス・ピザ』を撮り始める時もそうだったけど、若返ることはできないのだから、早く始めないといけないと思っているんですけどね」
取材・文/平井 伊都子