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子どもの目から見る世界とは?“いま”を見直すきっかけをくれる「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022」新鋭監督たちの秀作

コラム

子どもの目から見る世界とは?“いま”を見直すきっかけをくれる「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022」新鋭監督たちの秀作

2004年に初開催されて以来、若い才能の発掘と育成を主軸に、若手監督を次々と羽ばたかせてきた「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、今年で19回目を迎える。本映画祭がいち早く注目し、輝かしい活躍を続ける監督のなかには、カンヌ国際映画祭の常連で『雪の轍』(14)でパルムドールを受賞したトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督をはじめ、日本の白石和彌監督、中野量太監督らも名を連ねる。今年は国内外からのゲストも招き、3年ぶりのスクリーン上映(7月16日~7月24日)に加え、オンライン配信(7月21日~7月27日)もあり、ハイブリッドで開催される。

映画祭の柱、国際コンペティション部門には、99の国と地域より775作品が応募。そのなかから、10作品が選出された。ここでは、“子どもの目から映しだされる世界”を描いた4作品に注目してみよう。彼らのまっすぐな瞳には世界がどう映っているのか、また彼らの目を通して我々は世界をどう捉え直すのか。新たに、あるいは改めて気づかされることも多いだろう。

扉の隙間から覗く戦争の緊張感を味わう『ファルハ』

アラブ社会における1人の女性の自立の物語でもある『ファルハ』
アラブ社会における1人の女性の自立の物語でもある『ファルハ』[c]TaleBox 2021

1948年のパレスチナの小さな村を舞台に、14歳の少女ファルハの生活を描く『ファルハ』。女は教育より結婚という周囲の圧力にもめげず、彼女は村長である父親に、都会の学校へ進学したいと訴えている。ついに父親から許しを得て喜色満面のファルハだったが、悪化の一途をたどっていた国内情勢の影響がファルハの村まで押し寄せる。人々は村から脱出していくが、村長の父は村人たちを見捨てられないと残り、父を心配して戻ってきたファルハを食糧庫に隠して閉じ込め、武器を手にする。

ファルハに村を早く脱出してほしいという観客の願いも虚しく、父を心配し戻った彼女が行き場を失うまで、一瞬の出来事に目を奪われる。だが、この先では、カメラは外へ出ることなく、ファルハの様子、そして微かな光しか差さず、細い隙間から覗く風景の断片、銃声や怒声など、彼女が見聞きするものだけが、我々観客に提示される。敵に見つかったら一巻の終わりという緊張感のなか、父親がどうなったのか、外の人の気配は誰なのか、喉の渇き、いつ外に出られるのかなど、様々な疑問や恐怖がジリジリと観る者を締め付ける。

扉の隙間から覗く戦禍の様子が緊張感を与え、戦争の酷さが伝わってくる(『ファルハ』)
扉の隙間から覗く戦禍の様子が緊張感を与え、戦争の酷さが伝わってくる(『ファルハ』)[c]TaleBox 2021


序盤、家父長制が根強いアラブ社会における女性の地位や生きづらさ、人生の選択の狭さに憤りを覚えずにいられない。だが、そんな社会に押し込めず、ファルハに未来を拓こうとする父の愛や教養の深さに救われるから一層、それが踏みにじられる展開に地団駄を踏みたくなる。一瞬も途切れぬ緊迫感、戦争の不条理、戦時下でどこまでも残酷になれる人間の狂気を、ファルハの目を通して体験させられ、胸を掻きむしりたくなる。

ヨルダン出身のダリン・J・サラム監督が、母親に伝えられたある難民女性の実体験をもとに脚本を書き、映画化した衝撃作。説明を省きながら感情に強く訴える語り口、目を逸らさせぬ画づくりや無駄のなさ、リアルな息遣いを捉える的確な距離感など、本作が長編初監督とは、とても信じ難い。さらにファルハ役を演じたカラム・ターヘルが、オーディションで選ばれた演技未経験者ということにも驚かされる。現在もまだパレスチナ、イスラエル間がくすぶり続けている意味からも、世界中で観られるべき意義深い佳作である。


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■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022
日程:【スクリーン上映】7月16日(土)~7月24日(日)、【オンライン配信】7月21日(木)~7月27日(水)
会場:SKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザ 映像ホールほか
内容:国際コンペティション、国内コンペティション(長編部門、短編部門) ほか
URL:http://www.skipcity-dcf.jp/
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