子どもの目から見る世界とは?“いま”を見直すきっかけをくれる「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022」新鋭監督たちの秀作
コメディアンを目指す少女の温もり溢れるストーリー『コメディ・クイーン』
そして、最後に紹介するのは、現代のスウェーデンが舞台の『コメディ・クイーン』。手掛けたサナ・レンケン監督は、デビュー作『マイ スキニー シスター』(15)に続き、本作で2度目となるベルリン国際映画祭ジェネレーションKplus部門でクリスタル・ベア賞(作品賞)を受賞した新鋭。
母を亡くした少女サーシャは、悲しみを乗り越えるため、4つの誓いを立てる。そのなかには、彼女なりの考えがあり、頑なに実行に移そうとする。ついに4つ目で、母を亡くして以来、笑うことのなくなった父の笑顔を取り戻すため、コメディアンとなって笑わせるという誓いを実行しようと、舞台に立つことになる。
タイトルのように“お笑いの舞台に挑戦”のイメージと思いきや、かなりヒリヒリした触感の本作。冒頭から、攻撃的ともとれる尖った言動をとるサーシャだが、突然目の前から消えた母に対して怒りにも似た感情を持て余し、誰よりも傷つき、喪失感に震えているのだろう。泣きそうになると寝転がって涙を目の奥に押し戻し、奥歯を噛みしめるその姿は、ふてぶてしい態度とは裏腹に、あまりに健気で痛々しい。同時に、彼女がまた誰かと衝突し、自分を傷つけ 、問題を起こすのではないかとハラハラして目が離せない。心のなかに一触即発の“悲しみや怒り”という爆弾を抱えたサーシャの心模様が、若き女優シーグリッド・ヨンソンのリアルで切実な演技もあって、痛いほどジンジン伝わってくる。どうしようもなく胸が揺さぶられる。
本作の物語は、自分事として引き寄せて感じずにいられない。子どもの衝動や心模様、確立しつつあったアイデンティティがいっきに崩壊するほどの悲しみとの向き合い方、周囲の人との付き合いなどが、等身大に繊細かつ誠実に映しだし、誰もが身に覚えのある様々な感情をフツフツと沸き立たせる。父、叔父、祖母が、時に戸惑いながらも見守ろうとする姿勢も、感動を深くする。終盤、サーシャが押さえていた感情を解き放つ場面は、観る人にも涙の大波が押し寄せる。ヒリヒリと、でもみずみずしく、抱きしめたくなるような親密で心に染みる感動作だ。
4作の主人公は、10歳から14歳の子どもたち。いかに親をはじめ周囲の大人や環境に、思考や物の見方が左右されるか、ということにヒヤリとさせられる。それはつまり、環境や導き次第によっては、どこまでも伸び行く可能性があるということでもある。だからこそ子どもや若者たちの未来は、貧困や紛争、戦争といった負の環境から守られなければならない。それこそが我々大人がこの世界中で最優先して成すべきことではないか、と改めて強く思わされる。
この年齢の子どもたちが魅力的でおもしろいのは、心身の成長過程における流動的なアンバランスさや危うさがはらむ、劇的なドラマ性にもあるだろう。同時に、子どもたちの予想以上に大人をよく見ており、大人の欺瞞や嘘、隠そうとする感情までも直感的に見抜いてしまう力、そして、打算でなく本能で愛する、または守ろうとする力の大きさに、ハッと驚かされる。それはかつて同じ年齢を経験していた大人たちに、忘れ去っていた感情や純粋さ、濁りなき瞳を、一瞬であれ思い出させてくれる。さらに、子どもを平等に向き合わない姿勢、自分の都合で子どもを扱う身勝手な振る舞い、社会的な立場を優先して判断する姿など、子どもの目線から映しだした大人の姿に、イタいと胸を押さえるのは、きっと筆者だけではないはずだ。大人も子どもも目がクギづけになる、この4作品に是非とも注目していただきたい。
文/折田千鶴子
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■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022
日程:【スクリーン上映】7月16日(土)~7月24日(日)、【オンライン配信】7月21日(木)~7月27日(水)
会場:SKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザ 映像ホールほか
内容:国際コンペティション、国内コンペティション(長編部門、短編部門) ほか
URL:http://www.skipcity-dcf.jp/