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原点『ジュブナイル』から22年…『ゴーストブック』の山崎貴監督が、“時間”をテーマに映しだすもの

コラム

原点『ジュブナイル』から22年…『ゴーストブック』の山崎貴監督が、“時間”をテーマに映しだすもの

冒険を通じて大切なものを学ぶ子どもたち

そんな本作の一番の魅力は、子どもたちのみずみずしさである。気弱で頼りないけど友だち思いの一樹、大人びて反抗的だが根は優しい太一、ムードメーカーで愛されキャラのサニーの3人と、負けず嫌いの活発なヒロイン湊。半人前にも満たない彼らが互いにフォローし合うコンビネーションと、子どもらしい自由で想定外の行動がおばけとの戦いを盛り上げる。さらに仕事がないから代替教員やってみた的「とりま先生」こと瑤子も絡み、自分は何者なのかを見つけだす普遍的なストーリーを展開する。

あやしい店主のいる古本屋に、子どもたちを追って入った瑤子先生も冒険に巻き込まれてしまう
あやしい店主のいる古本屋に、子どもたちを追って入った瑤子先生も冒険に巻き込まれてしまう[c]2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

1980年代以降『E.T.』(82)や『グーニーズ』(85)、『ドラキュリアン』(87)など冒険を通じて大切なものを学ぶ子どもたちを描いた作品はジャンルとして定着し、近年も「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シリーズや『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(20)が話題を呼んだ。『ゴーストブック』もその系譜に連なる一本だが、本作が想起させるのは22年前に公開された『ジュブナイル』(00)である。ある夏の日、森で小型ロボット・テトラと出会った4人の子どもたちを描いたこの作品は、山崎監督の長編監督デビュー作。命がけの大冒険、仲間たちとの友情、淡い初恋といったテーマに加え、気弱な主人公・坂本祐介、大人びたリーダー格の俊也、お調子者の秀隆、祐介が想いを寄せる活発なヒロインの岬というキャラの配置もそのまま『ゴーストブック』に受け継がれている。


今作の製作にあたり、原点である少年少女の映画をまた撮りたいと思っていたタイミングだったと語った山崎監督。主人公である一樹の両親の名が祐介と岬で、22年前に子役としてして彼らを演じた遠藤雄弥と鈴木杏を起用するという徹底ぶりもおもしろい。テトラもちらりとカメオ出演しているので、『ジュブナイル』をチェックすると楽しさが広がるはずだ。

【写真を見る】『ジュブナイル』で共演した鈴木杏と遠藤雄弥が、一樹の両親役に!
【写真を見る】『ジュブナイル』で共演した鈴木杏と遠藤雄弥が、一樹の両親役に![c]2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

もうひとつ『ゴーストブック』と『ジュブナイル』に共通しているのが“時間”がテーマの作品ということ。といっても、この2作に限らず時間は欠くことのできないモチーフとして多くの山崎監督作に使われてきた。『ジュブナイル』では未来から来たテトラによって少年たちが20年にわたる物語を繰り広げ、『Returner リターナー』(02)では異星人の侵略を防ぐため未来から来た少女の物語。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『DESTINY 鎌倉ものがたり』は観客を別の時代へ連れて行く映画版タイムマシンだったし、初代が盗みそこねた獲物を三世がねらう『ルパン三世 THE FIRST』(19)のほか、『永遠の0』(13)や『海賊とよばれた男』(16)、『アルキメデスの大戦』といった歴史・時代作品も時間がストーリーや構成の重要な鍵になっていた。

神木隆之介扮する古本屋の店主が、不思議な冒険への案内人となる
神木隆之介扮する古本屋の店主が、不思議な冒険への案内人となる[c]2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

『ゴーストブック』で時間がどう扱われているのかは映画館で楽しんでもらうとして、そもそも一樹が祐介と岬の息子という設定自体が『ジュブナイル』のその後の物語とも、テトラと出会わなかったパラレル世界の祐介と岬の20年後の物語とみることもできる。少年時代に『スター・ウォーズ』(77)や『未知との遭遇』(77)と出会い映画の世界に進んだ山崎監督は『ターミネーター』(84)にも多大な影響を受けたと語っており、『ゴーストブック』からもそんな“時間”というテーマへの想いがひしひし伝わる作品になっている。

試練を通して成長していく子どもたちの姿をいつしか応援したくなる!
試練を通して成長していく子どもたちの姿をいつしか応援したくなる![c]2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

約20年もの時を経てふたたび原点に立ち戻った山崎監督だが、『ジュブナイル』と『ゴーストブック』には大きな違いがひとつある。それは時間をひとつの輪として描いた前者に対し、後者では未来は変えられるとしていること。自分を信じ行動することで未来の可能性は無限に広がっていく。そんなポジティブなメッセージに心打たれる本作は、山崎監督の次のステージの出発点なのかもしれない。

文/神武団四郎

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