不機嫌な表情も、恍惚とした表情も。”撮りたくなる”前田敦子の魅力とは?最新作ではファムファタールな人妻に

コラム

不機嫌な表情も、恍惚とした表情も。”撮りたくなる”前田敦子の魅力とは?最新作ではファムファタールな人妻に

大物監督たちに重宝されていることからもわかるように、女優として独自の路線を歩み続けている前田敦子。2021年から事務所フリーとなると、より自由な作品選びで個性派女優としての道を邁進中。三木聡監督作の『コンビニエンス・ストーリー』(公開中)でもその本領を発揮している。

『コンビニエンス・ストーリー』は、ドラマ「時効警察」シリーズや『転々』(07)、『俺俺』(13)といった独自のセンスが炸裂したシュールな作風で知られる三木聡監督が、映画評論家でプロデューサーのマーク・シリングの企画を映画化したもの。

前田敦子が演じるのは、異世界に迷い込んだ脚本家の加藤(成田凌)といい仲になっていく人妻の惠子
前田敦子が演じるのは、異世界に迷い込んだ脚本家の加藤(成田凌)といい仲になっていく人妻の惠子[c]2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

売れない脚本家の加藤(成田凌)は、同棲中の恋人で女優のジグザグ(片山友希)の飼い犬、“ケルベロス”に脚本のデータを消されたことに腹を立て、犬を山に捨ててきてしまう。しかしそのことがバレ、犬を探しに戻るとレンタカーが故障し立ち往生。そんな時、霧が立ち込める中で見つけた古びたコンビニ「リソーマート」の店員である惠子(前田敦子)とその夫でコンビニオーナーの南雲(六角精児)と知り合い、家に泊めてもらうことになるのだが、あろうことか惠子と駆け落ちすることになり…。

メガホンを握っている三木聡監督も前田の演技を「天才」と絶賛
メガホンを握っている三木聡監督も前田の演技を「天才」と絶賛[c]2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

黒沢清、山下敦弘ら大物監督らがこぞって起用

これまで数多くの監督たちからラブコールを受けてきた前田。例えば、山下敦弘監督の『もらとりあむたま子』(13)では、大学卒業後、就職もせずに実家で自堕落な生活を送るやさぐれた女性を、不機嫌そうな表情やぶっきらぼうな口ぶり、尻をかく仕草などを交えコミカルに体現。アイドル出身とは思えない役どころでありながらも、不思議と納得させられるような説得力にあふれた演技を見せていた。

またJホラーの旗手、中田秀夫監督による『クロユリ団地』(13)では、どこかダウナーな雰囲気を生かした幸薄そうな覇気のない表情や、目をカッと見開くなどケレン味たっぷりの顔つきで、恐怖体験に巻き込まれ、しだいに精神的に錯乱していく女性を演じ、作品の恐怖を底上げ。ジャンル映画でも存在感を見せつけた。


これら以外にも、沖田修一、瀬々敬久、熊切和嘉、松居大悟など多くの個性的な監督たちに愛されてきた前田。特に黒沢清監督からは高く評価されており、1人の男を追いかけてロシアのウラジオストクまで訪れる女性を演じた『Seventh Code』(13)や、テレビ番組のクルーと共に取材でウズベキスタンを訪れた女性レポーター役の『旅のおわり世界のはじまり』(19)など多くの作品に出演。

「1人でポツンといるだけで存在感が出せる」、「たった1人で生きている強さがにじみ出ている。こんな人は少ない」など、黒沢監督からはその類稀なる存在感を、繰り返し高く評価されてきた。

最新作では不思議なオーラをまとったファムファタールな人妻に

【写真を見る】前田敦子の色っぽい表情が満載の『コンビニエンス・ストーリー』
【写真を見る】前田敦子の色っぽい表情が満載の『コンビニエンス・ストーリー』[c]2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

チャレンジングな役柄にも次々と挑み、作品ごとにイメージを裏切ってきた面白味のある演技。また、画面上にいるだけで目が離せなくなるような存在感を武器に“怪優化“を続けている前田。いつの間にか迷い込んだ異世界を舞台に繰り広げられる奇妙な人間模様が、ユーモラスかつ不気味なテイストで綴られていく『コンビニエンス・ストーリー』では、霧の中のコンビニで働くどこか妖艶でミステリアスな雰囲気を纏った人妻という一風変わった役に挑んでいる。

前田敦子が演じる妖艶な人妻姿から目が離せない!
前田敦子が演じる妖艶な人妻姿から目が離せない![c]2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

柔らかくもねっとりとした語尾が印象的な不思議な話し方や、主人公の加藤に向けられる舐めるような眼差しなど、異世界という設定にぴったりとハマる浮世離れした演技で人妻の艶やかさを表現しており、これまでの作品では見たことのないような新たな一面をまたも覗かせている前田。

ガソリンを浴びてその匂いに恍惚の表情を浮かべたりと、艶やかな表情をのぞかせている
ガソリンを浴びてその匂いに恍惚の表情を浮かべたりと、艶やかな表情をのぞかせている[c]2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

独特な言葉遣いなど、演技と持ち前の存在感で浮世離れした役柄に命を吹き込んでいる
独特な言葉遣いなど、演技と持ち前の存在感で浮世離れした役柄に命を吹き込んでいる[c]2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

また、ガソリンを体に浴びて浮かべる恍惚とした表情や、タオル1枚だけをまとい、体をよじらせながら歩み寄ってのキスなど、加藤を誘惑するファムファタール的な役どころを体当たりで演じており、どこか風変わりな魅力を放つ一挙手一投足には、劇中の加藤さながらに思わず目が奪われてしまうことだろう。

『コンビニエンス・ストーリー』は公開中
『コンビニエンス・ストーリー』は公開中[c]2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

恋愛体質のデザイナー役を演じた主演作『もっと超越した所へ。』(10月14日公開)が控えるほか、高校生のシンクレア・ウィリアムが監督と脚本を手掛けたYouTube映画『チェンジ』にも出演するなど、その規模にとらわれず様々な作品に積極的に出演している前田。個性的な監督たちとの仕事で、ますます女優として才能を開花させていくことに期待が高まるばかりだ。

文/サンクレイオ翼

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