「007」と並ぶ伝説のスパイ物語や、恐ろしい近未来予想が的中して話題のSF家族ドラマ…映画ファンにこそ観てほしい海外ドラマを語り合う!
「『FIRES~オーストラリアの黒い夏~』はスケールの違いに目がクギづけになる」(前田)
――オーストラリアつながりで「FIRES~オーストラリアの黒い夏~」はいかがでしょうか?2019~20年にかけて発生した大規模森林火災を題材にしているということで、ディザスター映画のような趣ですが。
前田「まず、火災といってもスケールの違いに目がクギづけになりました」
坂田「『シカゴ・ファイア』や『9-1-1:LA救命最前線』のようなレスキューものを想像していたんですが、全然違った。ヒロイズム的なことではなくて、森林火災が起こったことによって生まれる様々な人間ドラマを描いています」
前田「すごく意外でしたよね」
坂田「各話独立したオムニバス的な構成になっていて、最後には一つにつながるんだけど、印象的だったのが火災から嫁姑問題に発展していたエピソードです。あれには驚いた。『ロード・オブ・ザ・リング』のミランダ・オットーが出ています。そのほか、レズビアンカップルや動物愛護家、いろんな人々が出てきて、縦軸で若い消防ボランティアの青春模様も描かれる。1話1話の見応えがすごくて、役者の演技もよくて秀逸でした」
前田「『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』で三女を演じたエリザ・スカンレンもヒロイン役で登場して、いい味出していますよね」
――キャストのなかには、『アバター』(09)のサム・ワーシントンもいますね。
前田「4話に出てきますね。ハートウォーミングな話。そういえば、3話は火災から逃げる中でのちょっとしたホラーというか、スリラーのテイストもあります。坂田さん目線ではいかがですか?」
坂田「大火災がどんどん街に迫って来て、停電して電波も途切れて孤立してしまって…刻一刻と危険性が高まり迫力満点。血沸き肉躍りました。ドラマだけでなく、そういった要素も盛り込んであるから、バランスがいい」
前田「あと驚いたのは、避難勧告が出ているのに、それでも大火災から自力で家を守ると頑張る人の存在。日本も災害が多いので考えさせられました」
「現実と幻想を混在させる映像世界を見せる『ランドスケーパーズ 秘密の庭』は、独創的な演出がおもしろい」(前田)
――英国2大名優が主演の「ランドスケーパーズ 秘密の庭」という作品もおもしろいですよね。夫婦の物語でありながら、実在の殺人事件がベースになっています。
前田「私は夫を演じたデヴィッド・シューリスが好きなので、彼の演技をすごく楽しみにしていましたが、最初に出てきた妻役のオリヴィア・コールマンにやられちゃいました。彼女が演じるスーザンは、映画好きというかコアなマニア。ゲイリー・クーパーが大好きで、ハリウッドの古い映画のポスターやグッズになけなしのお金をつぎ込んでいる。往年の映画ファンの方にとっては、『わかる、わかる』と共感する部分も多い人物なのでは」
坂田「これはクライムミステリーだけど、ラブストーリーでもありますよね。僕はベタなラブストーリーは苦手ですけど、本作では2人の愛情が強くなればなるほどスリラーになる。それと、コールマンさんの演技がうまいからこそですが、微妙なところで共感と反感、両方の感情を抱きました。完全に共感しちゃうと危険というか、寸前のところで一歩踏み留まらせてくれる、視聴者の倫理観を試すところがありました。虚実入り混じっている描き方も絶妙でしたね」
前田「2人ともどこか浮世離れしている。残酷な殺人事件を起こしているのに、その一方で、好きな名画の世界を妄想して入り込む。ファンタジーとリアルのギャップが浮かび上がるほど、背筋が寒くなるというか…」
坂田「ゲイリー・クーパー主演の西部劇『真昼の決闘』をうまく物語に生かしている。本作のモデルとなった、殺人を犯した夫婦が実際にファンだったということもあって、フランスの名優ジェラール・ドパルデューの『終電車』も出てきますね」
前田「監督のウィル・シャープは、日英ルーツの注目のクリエイターなんですよね。現実と幻想を混在させる映像世界を、モノクロ映像を巧く入れ込んだり、“映画”のシーン風にみせるシーンもあったりと、独創的な演出がおもしろい」
――ウィル・シャープは35歳とまだ若いんですけど、ドラマ「GIRI/ HAJI」に俳優としても出ていて。日本には入ってきていないんですけど、オリヴィア・コールマン主演の「Flowers」というドラマもあり、最近ではべネディクト・カンバーバッチ主演の『The Electrical Life of Louis Wain』を監督しています。
坂田「すごいキャストに、いま注目の気鋭クリエイターがタッグを組んだ作品。観て損はないですよね」
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■前田かおり
大学卒業後、週刊誌、月刊誌などの取材ライターを経て、2000年頃から映画、海外、韓国ドラマなどの取材、レビュー、劇場パンフレットを主に執筆。現在、「日経エンタテインメント!」「SCREEN」「ELLE gourmet」「シネマトゥデイ」「映画ナタリー」「DVD&動画配信でーた」などで執筆。好きなジャンルはサスペンス、医療、法廷もの。激渋な英国や北欧系俳優が出ているとイッキ見度が加速。
■坂田正樹
エンタメの舞台裏を学ぶ情報サイト「バックヤード・コム」(2022年4月開設)代表。ライターとしても映画・ドラマ関連のインタビュー、コラム、レビュー、劇場パンフレット制作などを行なっている。主な執筆媒体は、「シネマトゥデイ」「海外ドラマNAVI」「クランクイン!」「SPA!」「DVD&動画配信でーた」等。好きなジャンルは犯罪サスペンス、スリラー、サイコ系ホラー。ドラマなら「ツイン・ピークス」S1(1-16話)がいまなおベスト1。憧れの俳優はブラピ。なれるものならなってみたい。