戦争の記憶を令和にどう伝えるか。「ちむどんどん」が描いた“多様性”の反戦メッセージ

コラム

戦争の記憶を令和にどう伝えるか。「ちむどんどん」が描いた“多様性”の反戦メッセージ

残すところ1か月強となった黒島結菜主演の連続テレビ小説「ちむどんどん」(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか)。沖縄本島のやんばる地域を舞台にした本ドラマは、1964年を起点に、沖縄料理に夢を懸けるヒロインの比嘉暢子(黒島)とその家族の奮闘を、数十年にわたる時間の流れのなかで映しだす。

結婚式のメニュー作りに協力してくれたアッラ・フォンターナの同僚たち(89回)
結婚式のメニュー作りに協力してくれたアッラ・フォンターナの同僚たち(89回)[c]NHK

特に物語が沖縄戦の記憶に向き合った第15週「ウークイの夜」では、改めて朝ドラが放つ反戦メッセージの意義を感じつつ、制作サイドの熱意と覚悟にうなった。本稿では、令和4年のいまを生きる我々に向けて描かれた、本作の“多様性”のメッセージを紐解いてみたい。

仲間由紀恵が演じる優子が語った、壮絶な戦争体験

笑いあり涙ありの人情喜劇として描かれている「ちむどんどん」だが、本土復帰50年を記念して制作された作品ということで、当初から、登場人物のなかには沖縄戦の当事者であることが示唆されたキャラクターも少なくなかった。仲間由紀恵が好演する、暢子たち4兄妹を温かく見つめる母・優子もその一人である。

仲間は本作のオファーを受けた際に「戦争の話にも触れるということで、しかもある意味、私がその語り部のような役割を担わせていただくことはとても光栄でした。自分にとっても意味のあることだと思い、一生懸命取り組ませていただきました」と気合十分に現場入りしたそうだ。

新たな夢へと邁進する暢子(91回)
新たな夢へと邁進する暢子(91回)[c]NHK


「マッサン」(14~15)などの羽原大介が手掛ける脚本は、序盤より戦争の影響をキャラクター描写の端々に込めつつもコミカルな味付けを崩さず進行してきたが、物語が中盤に差し掛かった第15週でついに沖縄戦の記憶に歩みを進める。特に第73回と第74回では、沖縄のお盆最終日であるウークイの夜に、優子が4兄妹に沖縄戦での壮絶な記憶を語り、視聴者の心にくさびを打ち込んだ。

仲間はこの脚本を初めて読んだ時、非常に胸を痛めたとコメントしている。「痛いことは、痛いと感じてもらえるように伝えないと、なかなか伝わらないもの。痛すぎる、むごすぎる映像を見てもらうのは違うとしても、チクッと痛みを与えるくらいでないと印象には残らないので『この台本なら大丈夫』と感じました」。

優子は沖縄で空襲に遭い、両親と姉は行方不明、自身は弟と共に逃げのびるも、アメリカ軍に捕まり収容所を転々としたなかで弟は餓死。現代パートで、仲間演じる優子が「この、腕の中で、冷たくなった。うちの腕の中で……」と涙ながらに言葉をかみしめるシーンが描かれた。

優子は亡き夫、比嘉賢三(大森南朋)が戦地から帰国後も、生きて帰ってきたことに対して罪悪感を抱いていたことも含め、子どもたちに語り終えると「ようやく話せた」と安堵する。この夜で比嘉家はより一層絆を深めたが、そのぶん、戦争が彼女にもたらした悲劇も色濃く浮かびあがったことは間違いない。

フォンターナの支配人、大城房子(原田美枝子)と、鶴見の沖縄県人会会長である平良三郎(片岡鶴太郎)が暢子の結婚式で再会した(89回)
フォンターナの支配人、大城房子(原田美枝子)と、鶴見の沖縄県人会会長である平良三郎(片岡鶴太郎)が暢子の結婚式で再会した(89回)[c]NHK

この週では、比嘉家での優子のほか、暢子が務めるレストラン、アッラ・フォンターナでは支配人の大城房子(原田美枝子)が、そして暢子の下宿先で沖縄料理店のあまゆでは、鶴見の沖縄県人会会長である平良三郎(片岡鶴太郎)や、新聞社の田良島甚内(山中崇)らが、それぞれに戦争の体験や喪失感を告白していくという展開になっており、羽原脚本の立体的な構造が光っていた。

なお、優子の回想シーンで若き優子を演じたのは優希美青。連続テレビ小説への出演は「あまちゃん」(13)、「マッサン」(15)以来3度目となった。目元が仲間にそっくりだと話題を呼んだ彼女の熱演が、物語により一層深い手触りを与えていたことも付け加えたい。

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