カリスマ書店員が『ブレット・トレイン』に見た“原作への敬愛”を解説!「伊坂幸太郎の“遊び心”と合致している」

インタビュー

カリスマ書店員が『ブレット・トレイン』に見た“原作への敬愛”を解説!「伊坂幸太郎の“遊び心”と合致している」

伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」をハリウッドで、しかも言わずと知れた世界的スター、ブラッド・ピット主演で映画化した『ブレット・トレイン』が、9月1日(木)に公開される。

伝説級の運の悪さを持つ殺し屋、レディバグ(ブラッド・ピット)は、東京発・京都行の超高速列車に乗り込み、ブリーフケースを奪うという"簡単な"依頼を引き受けた。しかし、突如現れたメキシコの殺し屋ウルフ(バッド・バニー)、"双子"と呼ばれる殺し屋コンビ、タンジェリン(アーロン・テイラー=ジョンソン)&レモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)や謎の女子学生プリンス(ジョーイ・キング)など、同じ列車に乗り合わせた腕利きの殺し屋たちから次々と狙われるはめに。彼らが乗り合わせたのは偶然だったのか。それとも、誰かによる陰謀なのか?

すでに公開されている北米では公開週の週末の興行収入で3012万ドルを稼ぎだし、2週連続No.1に輝いた。日本でも話題必至の本作について、ひと足先に作品を観たエッセイストで踊り子でもあるカリスマ書店員、新井見枝香にインタビューを実施した。

現在も書店員として働く新井見枝香。彼女は『ブレット・トレイン』をどう観たのか?
現在も書店員として働く新井見枝香。彼女は『ブレット・トレイン』をどう観たのか?

「伊坂幸太郎は伊坂幸太郎になりたいと思っていない」

新井は、アルバイトからスタートし、10年以上勤めた三省堂書店を2019年に退社したあと、2022年2月の閉店までHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEに在籍、現在は渋谷の店舗で働くカリスマ書店員。独自の文学賞「新井賞」を設立したことでも話題となった彼女は、「伊坂さんの小説は、本屋で働く前から気づいたら当たり前のように読んでいた」と話す。彼女が考える伊坂作品の魅力とは、どのようなところにあるのだろう。「伊坂幸太郎というのは“すごく売れていて人気のある作家”ですけど、あくまでもマイペース。常に、自分のなかでおもしろいと思うものを淡々と書いているイメージがあります」。同時に、読者を楽しませようとしている心意気が随所に感じられるのも伊坂作品の特徴で、新井も「たとえシリアスなテーマの小説でも、遊び心やサービス精神を感じますよね。そうやって、人を楽しい気持ちにさせることが好きだという性格が、小説からも感じられる方です」と伊坂作品の印象を語った。


殺し合いの舞台は“高速列車の中”。静かにミッションを遂行していくレディバグ
殺し合いの舞台は“高速列車の中”。静かにミッションを遂行していくレディバグ

また新井は、伊坂のようなスタイルの作家は意外と少ないと指摘する。「みんながおもしろいと思うものを書く人は、“みんながおもしろいと思うものを書く”という職業の人なんです。でも伊坂さんには、その職業臭さを一度も感じたことがなくて。多分、彼がいつまでも子どもみたいな心を持っているからだと思う。自分がおもしろいと思ったことを書きながら、自分の身近な人に対する視野のある文章になっていますよね。だから、伊坂幸太郎には“自分はこうあるべき”みたいなものがない気がする。伊坂幸太郎みたいな文章を書く人はたくさんいて、伊坂幸太郎みたいになりたいという人もたくさんいる。でも、なぜ誰も伊坂幸太郎みたいになれないかというと、伊坂幸太郎は伊坂幸太郎になりたいと思っていないからなんですよ。そこは、絶対に誰にも越えられない(笑)」。


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