ジョーダン・ピール監督が語る、『NOPE/ノープ』での挑戦とエンタメ愛「『AKIRA』と『エヴァ』は革命!」
『ゲット・アウト』(17)、『アス』(19)でホラージャンルの新たな領域に踏み込み、世界中を驚愕させた鬼才ジョーダン・ピール監督。彼が3年ぶりに手掛けた『NOPE/ノープ』(公開中)は、SFであり、スリラーであり、突き抜けたエンタテインメント映画でありながら幾つもの社会的な問題的を投げかける、まさにピール監督の真骨頂と呼ぶべき意欲作だ。
「私の映画は、まず私自身が恐怖するものから始まります。それは消化不可能なトラウマに対する、一種のセラピーのようなものです」と語るピール監督が本作で目指したのは、王道のメジャー級大作映画だったという。とりわけ大きな影響を受けた作品として挙げられたのは、スティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(77)と、M.ナイト・シャマラン監督の『サイン』(03)。どちらも本作同様、巨大な“飛行物体”との遭遇を描くSF作品だ。
「どちらも私自身にとって大切な映画です。特に尊敬している点は、飛行物体が登場するSF映画でありながらも、ファンタジーや愛について描く、いわば“ハート”についての映画であることです。そして私は、この2作品よりももっと怖い映画を作りたいと考えるようになりました(笑)」。
物語の舞台はロサンゼルス郊外のサンタクラリタにある広大な牧場。牧場主のオーティスが飛行機の落下物によって事故死して以来、牧場の経営は悪化の一途をたどっていた。父から牧場を継いだ息子のOJと娘のエメラルドの兄妹は、近隣のテーマパークに馬を売ってなんとか苦境を乗り切ろうとしていた。そんなある夜、牧場から一頭の馬が脱走する。追跡したOJは丘の向こうに奇妙な飛行物体を目撃。父の死に際にも巨大で速い“なにか”を見ていたOJは、エメラルドと共にその正体をカメラに収めようとする。
「監督たちの多くは、なにか言いたいことを抱えている」
メガホンをとった前2作でホラージャンルの形式を借りながら根深い人種差別の問題に斬り込んだピール監督は、本作でもSF映画の形式のなかに重要なテーマを掲げている。それは映画界に存在する“搾取”を明示することで、その象徴となるのは劇中に引用される1887年にエドワード・マイブリッジが撮影した馬の連続写真だ。“映画”の原初であり、ナショナル・ギャラリーに永久収蔵されたその歴史的写真には、馬の名前や馬主の名前が記録されているにもかかわらず、写っている黒人ジョッキーの名前はどこにも残されていない。
またOJら主人公家族はハリウッド映画を影から支える動物使いであり、スティーヴン・ユアンが演じるテーマパークの経営者リッキーは成長してお役御免になってしまった元子役。“光”の部分ばかりが取りあげられがちなハリウッドで表舞台に立てない、あるいは表舞台から下ろされてしまった人々にフォーカスを当てていく。この題材を選んだ理由についてピール監督は、「私自身がこの業界に長くいて、そのような人々の存在をよく知っているからかもしれません」と明かす。
「この業界は“ハリウッド・マシーン”とも呼ばれている。そのマシーンは魂を吸い込んで吐きだしてを繰り返すけれど、吸い込まれたものよりも吐きだされるものの方が少なく、その分多くの魂が失われていく。この映画に出てくる登場人物は、皆このプロセスを味わった人々なのです。マシーンに消費され、なにも残らなかった。この業界を経験したことのある監督たちの多くは、この残酷なプロセスを振り返り、なにか言いたいことを抱えているはずです」。長きにわたって触れられなかったハリウッドの“影”の部分に、ピール監督は果敢に挑んでいったのだ。