ジョーダン・ピール監督が語る、『NOPE/ノープ』での挑戦とエンタメ愛「『AKIRA』と『エヴァ』は革命!」
「革新的な“明るい”ナイトシーンは、日中に撮影したものです」
本作の映画的なダイナミズム、スリルを駆り立てていくのは、なんといってもその卓越した映像表現の数々だ。不条理さと不安を増幅させる閉塞感と、ミスマッチなほど開けた雄大なロケーションの融合。そんな本作の魅力を高めるためにピール監督がタッグを組んだのは、『TENET テネット』(20)などで知られる撮影監督で、“IMAXの名手”とも謳われるホイテ・ヴァン・ホイテマだ。
「観客に魔法的な経験を提供するとしたら、実際にそこにいて飛行物体やなにか違う世界から来たものを見ているという感覚。そしてその時に感じる恐怖や畏敬、驚きを与えることでした」と、自身の監督作としては初めてIMAXフィルムカメラでの撮影に挑んだ理由を明かす。「この映画が必要とする資質をすべて兼ね備えたカメラマンはホイテしかいなかった。また彼と仕事ができたらうれしいですね」と、IMAX撮影に誰よりも長けたホイテマの手腕を讃える。
なかでも目を見張るのは、どこか不思議な雰囲気がただようナイトシーンだ。暗闇なのに遠くの方まで見える、ほかの映画ではあまり観られない“薄明るい夜”の映像は、劇中で起こる不可解な出来事と巧みにリンクする。「私たちがナイトシーンで使ったのは、“Day For Night”という昔からある撮影手法を最新の技術でより革新的にしたやり方で、実は明るい日中の時間帯に撮影しました。人が夜に外に出ると、だんだんと目が慣れてきて遠くの方が見えるようになる。その感覚を映像で忠実に再現するために、ホイテが提案してくれたのです」。
こうした既存技術の革新のほかにも、1990年代後半のシットコムのシーンを35ミリフィルムで撮影したり、デジタルカメラを使って撮影したシーンを取り入れるなど、映像技術の歴史、これまでのあらゆる映像作品への敬意溢れる表現を多用しているのは、ピール監督の映画文化への愛情にほかならない。
また、劇中には具体的な作品に対するオマージュや引用も多々見受けられ、飛行物体の外見や動きは庵野秀明監督の代表作「新世紀エヴァンゲリオン」から、クライマックスに登場するアクションシーンは大友克洋監督の『AKIRA』(87)から影響を受けたことをピール監督は明かしている。
「『AKIRA』と『新世紀エヴァンゲリオン』は、私にとってアートにおける“ゲームチェンジャー”と呼べるくらい革命的なものでした。ポップ・アイコンとして自信と寛容を観客に与え、観た後にはダークな実存的な疑問、世界における孤立などを考えさせてくれる作品です」と強い敬意を語る。「私にとってこの2作品との出会いは、単に映画やアニメを観ることとはかけ離れたほとんど宗教的な体験であったといえます」。本作への影響はもちろんのこと、ジョーダン・ピールという世界が注目するクリエイターの原体験には日本が誇るアニメ作品の存在があったようだ。
取材・文/久保田 和馬