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「大切なのは“粘り強さ”」『アキラとあきら』原作者の池井戸潤が語る、ピンチへの打開策とは?

インタビュー

「大切なのは“粘り強さ”」『アキラとあきら』原作者の池井戸潤が語る、ピンチへの打開策とは?

「“弱者の苦悩”をわかっているのが、僕の財産です」

元銀行員という経歴を持ち、1998年に「果つる底なき」で第44回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビューした池井戸。数々の作品で働くことの意義や、窮地に立った人間の底力を描き、読者の心をわし掴みにしてきた。銀行では融資を担当していたというが、そこでは「たくさんの経営者の姿を見た」そう。銀行員の経験が、作家活動の糧になっていると感じるのはどのようなことだろうか。

作家になる前は銀行員として、融資を担当していたという池井戸
作家になる前は銀行員として、融資を担当していたという池井戸撮影/杉映貴子

池井戸は「日本の中小零細企業は、9割くらいが赤字なんですね。苦しんでいる会社のほうが圧倒的に多い。銀行員は、その“9割赤字”という人たちを相手に仕事をしている。『来月はどうしよう、再来月はどうなるんだ』と資金繰りに悩んでいる人たちに対して、どうやってお金を貸したらいいのかと考えているのが銀行員なわけです。そういった“弱者の苦悩”といったものをわかっている点は、僕の財産だと思っています。取材して小説を書くのと、肌感覚でわかったことを書くのとでは、まったく違うと思いますから」と明かす。

ベストセラー作家となった池井戸だが、「一冊書きあげるまでに、いつも5~6回は、本作での東海郵船並みのピンチが訪れます」と、本作で崖っぷちに立たされる企業名を引き合いに出して、苦笑い。ピンチの打開策を聞いてみると、「考えるしかない」とキッパリ。「『もうここで終わるんじゃないか』と思う時もありますし、『小説のなかで起きたこの問題は、果たして解決できるのか。どうやって解決するんだ』と自分で作りあげた問題に対して思うわけです。もうそれは、頑張って、自分で打開策を考えるしかない。僕はプロットを作らないので、書きながらその都度、どこかに出口があるはずだと考えて、打開していく。そうやって乗り越えていくことこそ、小説作りなんだと思っています」と語った。

2人が絶望的な状況を打開すべく共闘する姿は、小説を執筆する池井戸の心構えとも重なる
2人が絶望的な状況を打開すべく共闘する姿は、小説を執筆する池井戸の心構えとも重なる[c]2022「アキラとあきら」製作委員会

そんななか、池井戸が小説家として大切にしているモットーは「粘ること」だという。「とにかく、最後まで書ききることが大事。『このあたりでいいか』とか『くたびれたから、終わらせてしまおう』と無理やり終わらせてしまってはいけない。ストーリーの流れるまま、きちんと最後まで書ききるには、根気も体力も気力も必要なんだけれど、絶対に粘り強く向き合っていかなければいけないと思っています」と、池井戸自身の“諦めない心”が、人々に勇気を与えるような力強い作品へと注ぎ込まれている。

「夜中にアイデアを思いついては、スマホにメモをしたりして。趣味のゴルフをしている時も『こうしている間に、机に向かったほうがいいんじゃないか。俺はここでなにをやっているんだ』と思ったり…」と小説のことばかり考えてしまうそうで、「ちょっと疲れる仕事ではあります」と目尻を下げた池井戸。そんな彼にとって原動力となるのは読者の存在で、「僕の書いているものはエンターテインメントなので、皆さんが楽しんで読んでいただけるものを世に送りだしたいと思っています。誰かに楽しんでもらうための可能性を探ったり、広げたり、質を上げていくことは、決して無駄なことではない。そう考えると、とてもいい仕事なんですよね」と充実感をにじませる。

冷徹な上司、不動(江口洋介)に心を折られながらも、諦めず立ち向かう山崎
冷徹な上司、不動(江口洋介)に心を折られながらも、諦めず立ち向かう山崎[c]2022「アキラとあきら」製作委員会

池井戸の胸の内は、不屈の精神と情熱に満ちあふれていることがひしひしと伝わってくるが、映画となった『アキラとあきら』から「刺激をもらった」とも。「『アキラとあきら』を連載していたのは、10年以上前のことになります。2017年に文庫として出版するために読み直してみたところ、『青臭いな』と感じて。主人公の少年時代から書き始めているという点も、昔はパワーがあったんだなと思いました(笑)。いまならきっと、そういうことはできない。その時にいまの自分としては許せないところは書き直すことにしたんですが、青臭さを削ったら『アキラとあきら』ではなくなってしまうので、残すところはしっかり残そうと思いました。そういった意味でも、『アキラとあきら』は、昔の自分が書いた古いものと、いまの自分が融合したような作品なんです。塩水と淡水が入り混じっているようでもあり、なかなか自分では評価できない作品でもありました。でも映画になった『アキラとあきら』を観て、書いてよかったなと思えた。この作品が好きになったんです。この映画が、『これはいい作品だったんだな』と気づかせてくれました」と心を込めて語っていた。

取材・文/成田おり枝

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