松山ケンイチが語る、田舎暮しで見つけた幸せ「手をかけると、 “喜び”が味にプラスされる」
「家族を持ってから、ご飯を一人で食べても『美味しくない』と感じるようになった」
そんな松山に、食べ物にまつわる思い出について聞いた。「僕は家族でのご飯の時間がすごく好きです。だから思い出深いエピソードというよりは、家族揃ってみんなでご飯を食べながらしゃべる時間をとても大事にしています。一番自分が安心する時間ですし、僕は一人だと、山田みたいにご飯をおいしく味わえなくて、『あれ?なんでこんなにおいしくないんだろう』とか思ってしまう。独身時代はそうじゃなかったけど、家族を持ってからはそう感じるようになりました」。
本作のテーマである“ささやかな幸せ”についても尋ねると、やはり「家族といる時間」と答え、優しい眼差しを向ける。「子どもたちと一緒にいる時は、いろいろとふるまいに気をつけています。子どもは自分のことを見ているし、妻はもちろん、僕自身も自分を見ているというか。誰だって余裕がないと横柄になったり、自己中になってしまったりすることがあると思いますが、家族の目が向けられていると思うと、ブレーキがかかります。また、子どもたちが『クズ』などの好ましくない言葉を口にした時、どのタイミングで注意するのが一番いいのかと考えたりもします。そもそも正すべきか、それとも違う話題に切り替えておもしろい話をしたほうがいいのかと。そうやっていつも観察しながら子どもたちを見ていますね」。
さらに松山は、子どもたちだけで過ごしている姿もよく見ているようで、「子どもって本当におもしろいです。仲良くしているかと思えばすぐに喧嘩するし、喧嘩したと思ったらすぐに笑いあったりもするし、反対に全然仲直りできない時もあります。本当に一定ではないので、観察していないと分からないのですが、そういう姿を見ていくのが楽しみです」としみじみ語った。
とことん役に向き合う松山は、守るべき家族を得たことで、より一層人間の深いところをリアルに体現できる名優へと進化し続けている。そして『川っぺりムコリッタ』のテーマである、誰かと食卓を囲むことの喜びもしっかりと噛み締めていて、まさに本作の主演にふさわしかったのだと、改めて実感した。
取材・文/山崎伸子