『スタンド・バイ・ミー』や『少年時代』『サバカン SABAKAN』まで…少年の“冒険と成長”映画
美しい映像に乗せて少年たちの期待と不安を映しだす『トロッコ』
川口浩史監督の『トロッコ』(10)も、人間の死から始まる冒険譚だ。この作品は芥川龍之介の短編小説をモチーフに、舞台を台湾に置き換えて作られた。急死した台湾人の父親の遺灰を届けるため、東京で暮らす小学生、敦(原田賢人)と凱(大前喬一)の兄弟は尾野真千子演じる母親と共に、初めて台湾に住む祖父の家を訪れる。台湾の生活になじんだ兄弟は、そこでの夏休みを満喫するが、母親が今後の子育てに悩んで台湾にとどまろうとしていることを知る。日本に帰りたい兄弟はこの地に残るトロッコに乗って、日本への船が出る港を目指して旅に出る。
少年たちの期待と不安を乗せて台湾の森の中を進むトロッコのシーンは、ホウ・シャオシェン監督の映画でも知られる撮影監督、リー・ピンビンによる映像も美しく、鮮烈な印象を残す。兄弟が旅の途中で出会う、林業を研究している青年との触れ合いも効果的で、自分たちの力で将来を切り拓こうとする少年たちの姿が、忘れがたい好編になっている。
少年たちの無邪気な友情を通して閉鎖的な社会の残酷さも描く『少年時代』
『サバカン SABAKAN』で久田を旅に誘う竹本は、家が貧しいために同級生から避けられている存在。ここでは主人公が差別されている同級生と触れ合い、心の壁を取り払うことで彼と友情で結ばれていくのだが、篠田正浩監督の『少年時代』(90)も少年たちの差別と友情を扱った作品だ。柏原兵三の小説「長い道」を藤子不二雄Aが漫画化した作品の実写化で、主人公は第二次世界大戦末期、東京から富山の親戚の家へ疎開してきた小学5年生の進二(藤田哲也)。富山の小学校へと転校した彼は、クラスの級長で暴力によって周りを支配している武(堀岡裕二)と親しくなる。
クラスの支配者だった武は、病気で学校を休んでいた副級長が復学し、彼の策略によっていじめの対象にされてしまう。その権力争いに巻き込まれた進二が、武に友情を感じながらも、周りの雰囲気に流されて彼と距離をもった関係になっていくのがせつない。脚本の山田太一は当時の閉鎖的な田舎の村社会を背景に、どこか無邪気であるからこそ残酷にもなれる少年たちの心を、リアルに映しだした。やがて進二は東京へ帰ることになり、迎えに来た母と汽車に乗る。その汽車を追いかける武。窓を開けて手を振る進二。そこに被る井上陽水の名曲「少年時代」。素直に友情を育むことの難しさを通して、疎開先での進二の心の冒険と成長を描いた感動作になっている。
文/金澤誠