デビュー10年目、全盛期真っ最中のカン・テオ「入隊前にウ・ヨンウに出会えてよかったです」
カン・テオにとって、「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」はとても特別な意味を持つ作品である。何度も壁にぶつかったり、頭を抱えて悩んだりしながら俳優としてもう一歩先へ進むきっかけになったのは言うまでもなく、多彩な魅力で視聴者の心を掴み、2013年デビューした以来人気の最高潮を迎えているからだ。
Netflixで配信中の「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」は天才的な頭脳ろ自閉スペクトラム症を持つ大手法律事務所の新人弁護士ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)が様々な事件を解決しながら成長していく物語を描く。1話が公開された6月29日から最終話が配信された8月18日までにずっと日本のNetflix人気ランキングTOP10に入っていた同作は、現在も1位を譲らず話題の中心になっている。
「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」のキャスト達は海外でも人気が高い、いわゆる“ワールドスター”や“韓流スター”ではなかった。しかもほとんどの人がなかなか接する機会のない自閉スペクトラム症をテーマにしているため、配信前には「こういうドラマが売れるわけがない」というネガティブな声も上がっていた。しかし同作は日本と韓国だけでなく、色んな国の非英語テレビ部門で1位を取りながら好評され、そういう声は杞憂に過ぎなかったことを証明した。
こんなに反響があるとは夢にも思わなったというカン・テオは「いまだに信じられないです。たくさんの方に観てもらいたいと願いながら撮影に入りましたが、まさかここまで話題になるとは(笑)。他のキャストたちもみんな驚いていますが、 勿論喜びの方がもっと大きいと思います。ドラマを観てくださった、応援してくださった方々には本当に感謝しかないです」と、嬉しそうに語った。
「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」は少し変わった視線で世の中の偏見や不条理に立ち向かうウ・ヨンウの挑戦を暖かく描き、笑いと涙、そして感動を同時に贈った。刺激的で暴力的なドラマばかり人気を呼んでいる時代だからこそ、同作のような、“無害で純粋”な作品を求めていたという人も少なくないと思われる。
「暖かくて癒される作品でありながら、ウ・ヨンウ弁護士が奇想天外な発想で事件を解決するキーを見つけたり、法廷で形勢を覆す弁護をする度にスカッとした快感を感じることもできたのが人気の一因だったかなと思います。毎回台本を読んで想像していたよりずっと仕上がりがよくて、放送を観る度にびっくりしましたので、キャストでなく、いち視聴者としてもわくわくしながら放送日を待っていました」
カン・テオが演じたイ・ジュノは「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」の成功に最も大きく貢献した主役の一人だ。法律事務所ハンバダの訟務チーム職員のイ・ジュノは、ハンサムな外見と優しい性格でオフィスの人気を一身に背負っているパーフェクトマン。ウ・ヨンウをサポートしながら彼女と共感し、いままで感じたことのない不思議な感情に包まれる。紳士的でありながらもウ・ヨンウへの気持ちをストレートに表現するイ・ジュノの姿は、視聴者の心を奪うには充分だった。
「イ・ジュノはあまりにも理想的過ぎて、この世に存在しなさそうなイメージですよね(笑)。だからこそたくさんの方に愛されたのではないかと。イ・ジュノはウ・ヨンウへの自分の気持ちに気付いてからとても悩むし、周りの人からも“やめた方がいいよ”と引き止められたりするけど、諦めずに愛を貫きながら成長していきます。そういう飾らない真っ直ぐなところがイ・ジュノの魅力じゃないかなと思います」
カン・テオは何よりも、ウ・ヨンウへのイ・ジュノの気持ちが“特別”なものに見えないように心掛けていた。自閉スペクトラム症とは関係なく、人が人を好きになって付き合う、ごく普通な男女の恋愛をナチュラルに描きたかったという。
「自閉スペクトラム症についてある程度は勉強しましたが、気を遣いすぎるのはむしろ逆差別になる可能性もあると思ったので、演技をする時は特に障害に関しては意識しないようにしていました。ウ・ヨンウのウェディングドレス姿が、イ・ジュノがウ・ヨンウに惚れたきっかけだったし、弁護士としてのプロフェッショナルな一面を見てどんどん興味を持つようになったんじゃないですか。自閉スペクトラム症という設定があってもなくても、二人の関係に変わりはなかったと思うので、イ・ジュノの感情をありのまま表現することに集中しました」
カン・テオを悩ませたのはイ・ジュノの感情ではなく、表現方法だった。イ・ジュノは理想的でありながらも現実的で、優しさと切なさを持ちながらも落ち着いている人物。そのバランスをうまく取るのが大変だったとのこと。
「いままで演じてきた人物に比べると、イ・ジュノはキャラクター性があまり強くない方なので、かなり苦戦しました。普段撮影現場に行くと自然にキャラクターに染み込むことが多いですが、今回は何故か最後の最後までなかなかジュノになりきれなかった気がします。完璧すぎる人物なので、プレッシャーも感じましたしね」
しかしカン・テオはそこで挫折せずに、一つ一つの台詞のトーンやニュアンスを繊細に工夫しながら、自分だけの色でイ・ジュノを表現した。7話の「悲しいな」、11話の「僕がなります、専用の抱擁椅子に」など、ややもすると言う側も聞く側も恥ずかしくなりそうな台詞もいい感じで消化し、”胸きゅん名台詞”という賛辞を受けた。
「『悲しいな』という台詞のシーンは何度も撮影しなおしました。ほんの少しのニュアンス差でイ・ジュノが全くの別人のようになっていたからです。ちょっとでも力を入れると『怖い』と言われたり、自分なりには愛しい眼差しで近づいたつもりなのに『サイコパス殺人鬼みたい』と言われたり(笑)。正直、台本を読んだ時はこのシーンがここまで話題になるとは思いませんでした。”国民ソッソプナム(全国民が認める寂しがりな男)”というあだ名ができたり、色んな方にパロディーしてもらったりして、工夫した甲斐があったというか、勿論俳優としてまだまだだとは思いますが、少しは自分自身を褒めてあげたくなりました。力を抜いた演技の大事さを学びましたね」
ウ・ヨンウというキャラクターそのものとして存在していた相手役のパク・ウンビンの助けも大きかった。
「最初はイ・ジュノをどのように演じればいいかよくわからないまま現場に行ったんですが、実際に撮影が始まると、パク・ウンビンさんが演じるウ・ヨンウがあまりにも可愛すぎて、『可愛くて愛しい、だけどやっぱり照れてしまう』というイ・ジュノの気持ちを自然に感じることができました。パク・ウンビンさんは前作が終わってからすぐこの作品の撮影に合流したので、時間的にあまり余裕がなかったはずなのに、ウ・ヨンウ役を完璧に準備してきていたので、さすがだと思いましたね。撮影中にもたくさんアドバイスをしてくれて、本当に助かりました。とてもリスペクトしています」
2013年「放課後サプライズ」でデビューしたカン・テオは2年後、ドラマ「女王の花」で父の借金を返済するために苦労するホ・ドンぐ役を務め、俳優としての認知度を高めた。以降「あなたはひどいです」「ショートSHORT」「ノクドゥ伝~花に降る月明り~」「ある日、私の家の玄関に滅亡が入ってきた」などのドラマに出演し、着実にフィルモグラフィーを築いてきた。
今年デビュー10年目を迎えたカン・テオは「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」で大ブレイクし、まさに全盛期真っ最中である。どんな作品、どんなキャラクターであろうと、黙々と最善を尽くしてきた彼の誠実さと熱情がやっと実を結んだと言っても過言ではない。しかしカン・テオはどんな褒め言葉にも浮き上がることなく、よりしっかりと重心を取ろうとしている。
「幼い頃から何かにハマると、成果を出すまでは絶対やめない性格でした。演技を始めてから、辛い時も勿論ありましたが、諦めずに自分にできることを精一杯やっていくと、必ずチャンスがくると信じていました。たくさんの方に『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のイ・ジュノを好評してもらって心から感謝していますが、その分、今後ももっと頑張らなければならないと思っています。ずっと『しっかりしろ!』と自分自身に言いかけていますよ(笑)」
軍入隊を控えているカン・テオは「悔しいとか、ネガティブを思い始めるときりがないと思うので、より成長できるチャンスだと考えるようにしています」と、いまの心境を明かした。「入隊する前に素敵な作品に出会えてよかっと思います。作品の反響がなかったら、少し辛い思いをしながら入隊したかも知れません(笑)。よりかっこいい姿で戻ってきますので、待っていてください」と語るカン・テオの除隊後の活躍がいまから待ち遠しい。
取材・文/李永実