余韻の残し方が白眉な『百花』、ファン・ジョンミンvs狂気の若者『人質 韓国トップスター誘拐事件』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、菅田将暉、原田美枝子の共演で描く記憶を巡る親子の物語、ファン・ジョンミンが主演&主人公が“熱演”を武器に誘拐犯からの逃亡を試みるサスペンス、一夜限りの強盗犯のはずだった人々が銃を片手に潰し合うクライム・エンターテインメントの、緊張感のある3本。
余韻の残し方が実に日本的な美しさ…『百花』(公開中)
親に愛を求め続けた子ども時代。成長するにつれ、今度は親の愛を無碍に子どもは離れていく。どんなに愛されたかを思い知るのは大人になってから。多くの親子に通じる普遍的な感情を特殊な母と息子で描いたところにこのドラマの秀逸さがある。
レコード会社に勤務する葛西泉(菅田将暉)は久しぶりに帰宅した実家で母、百合子(原田美枝子)の異変に気づく。認知症と診断された母は 「半分の花火が見たい」と繰り返す。ある日、百合子の昔の日記を見つけた泉は母の秘密と自分の幼い頃の記憶が重なる。「なんで忘れてんだよ、こっちは忘れらんねえんだよ」。少年に戻り、母に積年の思いをぶつける泉。菅田将暉の激しい苛立ちに同調せずにはいられない。ところが…。「半分の花火」の謎が解けた時にぶわっと湧き立つ感情。同じく認知症を扱った『ファーザー』(20)とはまるで違った味わいのミステリー。余韻の残し方が実に日本的な美しさ。(映画ライター・高山亜紀)
徹底的にシリアスな作風を貫いたクライム・サスペンス…『人質 韓国トップスター誘拐事件』(公開中)
韓国の人気俳優ファン・ジョンミンが誘拐された!そんな“もしも”のストーリーをジョンミン自身が演じた本作は、軽いノリのコメディかと思いきや、徹底的にシリアスな作風を貫いたクライム・サスペンス。まるでゲームでも楽しむかのように無法行為を繰り返す若者たちの犯罪グループに監禁されたジョンミンが、スターとしてのプライドも、人間としての尊厳も踏みにじられる悪夢のような極限状況下で、それでも希望を捨てずに生き抜こうとする姿を描く。
ジョンミンの体を張った大熱演、警察までも翻弄する若者グループの狂気じみた暴走が映画のテンションをぐいぐい高め、ひとときも目が離せない。『ベテラン』(15)などのジョンミンの過去作がセリフで引用されているのも、ファンには嬉しいポイント。はたして悲運の誘拐被害者ジョンミンは“ハッピーエンド”をたぐり寄せることができるのか。怒濤の展開が待ち受ける結末を目撃しよう!(映画ライター・高橋諭治)
金を手にしても居場所を見つけられないアウトローたち…『グッバイ・クルエル・ワールド』(公開中)
高田亮のオリジナル脚本によって、大森立嗣が監督したクライムアクション。促成で結成された強盗団が、仲間割れや追われる立場になって崩壊していくという物語は、石井隆監督の『GONIN』(95)やクエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(91)など、洋の東西を問わず作られてきた。ここでは西島秀俊を中心とする実行犯5人と、彼らに協力したホテル従業員の宮沢氷魚が、ヤクザと警察に追われていく。
ポイントは彼らの犯行後の在り様で、大金を手にした西島は妻の実家の旅館を立て直そうと金をつぎ込むが、元ヤクザという経歴が周囲に知られて更生する夢は破れ、キレた犯罪者の斎藤工は強盗の後にも無軌道に罪を重ねていく。社会を斜に構えて見ている政治家の元秘書を演じた三浦友和を含め、金を手にしても自分の居場所をどこにも見つけられないアウトローたちの、あがき続ける姿をアクションに託して描いた、これは大人たちの挽歌だ。(映画ライター・金澤誠)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼