“恐怖”に取り憑かれた僕が、仕事を辞めたわけ。Jホラーの巨匠から学んだ“映画の魔” - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
“恐怖”に取り憑かれた僕が、仕事を辞めたわけ。Jホラーの巨匠から学んだ“映画の魔”

インタビュー

“恐怖”に取り憑かれた僕が、仕事を辞めたわけ。Jホラーの巨匠から学んだ“映画の魔”

「幽霊表現のセオリーみたいにやってきたことを、またやることに抵抗があった」(高橋)

近藤「その後、映画美学校の2年目で高等科に入って、授業の一環として、高橋さんが監督した『霊的ボリシェヴィキ』を制作しました。僕は助監督としての参加だったんですが、母親の幽霊が出てくるカットを撮る時に、高橋さんが『どう撮ったらいいと思う?』って突然僕に訊いてきて、幽霊の表現にこそ、高橋さんはこだわるんだと思い込んでいたんで、びっくりしました」

『霊的ボリシェヴィキ』には助監督として参加した近藤監督
『霊的ボリシェヴィキ』には助監督として参加した近藤監督[c]2022『ザ・ミソジニー』フィルムパートナーズ

高橋「それまで、散々幽霊表現のセオリーみたいにやってきたことがあったんだけど、それをまたやることに抵抗があったんだよね。それは黒沢清さんや鶴田法男さんがやってきたことを踏まえているから、違うことをやりたいと思っていて。それで近藤君に振って、なにか化学変化が起きないかなって思ってた。Jホラーの恐怖表現をめちゃくちゃ研究している近藤君の、いま掴まえてる感覚が作品に入ってくれればいいなと思ったんだよね」

近藤「その撮影現場の感じから、高橋さん的には、鶴田監督や黒沢監督が『霊のうごめく家』や『回路』でやっているような、じっとたたずんでいたり、ゆっくり歩いてくるような幽霊の見せ方を、なくしたいくらいなのかなという印象でした」

高橋「そうね。出ることは出るんだけど、抑制の効いた表現じゃなくて、“やっちゃった系”というか、割とストレートにそのまま出てくるような表現にしたかった」

第1回日本ホラー映画大賞でMOVIE WALKER PRESS賞を受賞した近藤亮太監督
第1回日本ホラー映画大賞でMOVIE WALKER PRESS賞を受賞した近藤亮太監督

近藤「情緒ある感じというよりは、ボンと出すっていうような感じですか?」

高橋「そうそう」

「第1回日本ホラー映画大賞に応募した『その音がきこえたら』は、隠すまでもなく高橋さんの影響を受けています」(近藤)

第1回日本ホラー映画大賞でMOVIE WALKER PRESS賞を受賞した『その音がきこえたら』
第1回日本ホラー映画大賞でMOVIE WALKER PRESS賞を受賞した『その音がきこえたら』

近藤「この『霊的ボリシェヴィキ』の現場で経験したことや表現の影響は、僕が昨年の日本ホラー映画大賞に応募した『その音がきこえたら』にも反映されていると思います。高橋さんには撮影前にシナリオを読んでいただいて、完成後にも観ていただきましたが、改めて、ご覧になっての感想をお聞きしたいです」

高橋「廃校のなかに入って、いよいよこれから怖い場所に行くぞっていう場面に一番力を感じましたね。本当に怖いところに入っていく感じが強く出ていて、こういう描写力があるっていうのは、ホラーを作るうえですごく大事だし、エンタメとしても絶対そこで外してはいけない。そこができていたと思います。廊下を歩いていくところとかは、すごい良かった。あと、登場人物の“語り”をメインで進めていくんだってちょっと驚きました」

登場人物の”語り“によって物語が進行していく(写真は『その音がきこえたら』)
登場人物の”語り“によって物語が進行していく(写真は『その音がきこえたら』)

近藤「高橋さんに怖いと言っていただけるのは本当にうれしいです。主人公たちがかつて体験した恐怖を、“語り”だけで見せるというのは、隠すまでもなく、『霊的ボリシェヴィキ』の影響です。前半で怖い話をしていき、“語り”によって実体は見せずに想像に訴えるというのは、うまくいくか不安な部分でもありました」


高橋「“ゴーストストーリー”の一番王道みたいなことをやろうとしてると、観ていて感じましたね。でも、登場人物の“語り”だけで、シーンの怖い雰囲気を作っていくっていうのは、大事なことだけど、いわゆるエンタメの世界だと最近はあんまり受け入れられないんだよね。マイナーなやり方になっていて」

実体は見せずに想像に訴える作品を目指したという(写真は『その音がきこえたら』)
実体は見せずに想像に訴える作品を目指したという(写真は『その音がきこえたら』)

近藤「確かにホラー映画みたいな娯楽のジャンルだと、あまりやっていない印象があります」

高橋「本当はホラーこそ、“ゴーストストーリー”こそ、こうした演出が有効なはずなんだけどね」

「『ザ・ミソジニー』では、“決定的に嫌なことが起きる”感じの画がねらえると思った」(高橋)

近藤「高橋さんが今回監督された『ザ・ミソジニー』では、予告でも使われている螺旋階段を見下ろしているカットがめちゃくちゃ怖かったです。見下ろしている河野知美さんの顔も、見ちゃいけないものを見ている人の顔のようで、シンプルに怖くて。あのシーンはいつ思いついたのですか?」

『ザ・ミソジニー』で印象的に描かれる螺旋階段
『ザ・ミソジニー』で印象的に描かれる螺旋階段[c]2022『ザ・ミソジニー』フィルムパートナーズ

高橋「あのシーンは、ロケハンで螺旋階段を見つけて、上まで登って見下ろした時に思いつきました。『サイコ』とか『何がジェーンに起ったか?』みたいな、“決定的に嫌なことが起きる”感じの画がねらえると思ったんです」

近藤「個人的には『リング』で貞子が出てくるカットのような、『本当にやばいことが始まった』という気持ちになりました。『ザ・ミソジニー』でテレビに映しだされるニュース映像も、おぞましいなにかに触れる感じが強くあります」

『ザ・ミソジニー』に登場する奇妙なニュース映像について解説する高橋監督
『ザ・ミソジニー』に登場する奇妙なニュース映像について解説する高橋監督

高橋「あのニュース映像は、秘密結社みたいな人たちが、映像を発信してたってことなんだよね」

近藤「それは、『パラダイム』に出てくる、未来から受信している映像みたいなことですか?」

高橋「『パラダイム』っていうよりは、1963年に放映されたSFテレビドラマの『アウター・リミッツ』みたいなことなんだけどね。『これはあなたのテレビの故障ではありません。こちらで送信をコントロールしているのです』っていうオープニングナレーションから始まるのが有名で。あれに反応した人っていうのは、“裂け目”が見えてるっていうことで。今回はニュース映像が流れている時の音を決めるのに苦労しました。『リング』の呪いのビデオを流す時は、映写機のリールが回転する時のイメージで“シャリーン、シャリーン”っていう音を入れたんだけど、あの映像で試したらあんまりうまくいかなくて。いろいろ試して一番うまくいったのが、森のざわめきがニュース映像から聞こえるようにするっていう形でした。それは、森にいるなにかが根源にいるわけだから、それとつながったのかなと。よく言うじゃないですか。“黄泉からの風”みたいな。ああいう感じ」

登場するニュース映像は、SFテレビドラマの「アウター・リミッツ」を意識しているという
登場するニュース映像は、SFテレビドラマの「アウター・リミッツ」を意識しているという[c]EVERETT/AFLO

近藤「高橋さんの映画は、いつもすごく音へのこだわりがありますよね、高橋さんが子どものころに聴いた『この音です』っていう感じで」

高橋「そうね。でも『この音で』と言われても困るよね、俺にしか聴こえてないから」

近藤「ニュース映像で使われた森のざわめきの音は、撮影現場で実際に聞こえていた音ですか?」

高橋「そう。森のなかの音は、生音を活かして音の仕上げをしています。鳥もガンガン鳴いているし。止めようがない世界だから」

生音を活かした森のなかの音にも注目
生音を活かした森のなかの音にも注目[c]2022『ザ・ミソジニー』フィルムパートナーズ

近藤「なるほど。ちゃんと怖い鳥の声に聞こえるというか、鳥以外のなにかにも聴こえるような感じがしました」

高橋「そう?」

近藤「僕が高橋さんに感化されすぎているのかもしれないですけど(笑)」

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