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“恐怖”に取り憑かれた僕が、仕事を辞めたわけ。Jホラーの巨匠から学んだ“映画の魔”

インタビュー

“恐怖”に取り憑かれた僕が、仕事を辞めたわけ。Jホラーの巨匠から学んだ“映画の魔”

「ホラー映画で世界市場が求めているのは、クリーチャーが出てくるアメリカンな作品」(高橋)

近藤「YouTubeとか僕は結構見るんですけど、高橋さんは見ますか?」

高橋「近藤君がおすすめしてるものとかは見てますよ。全国各地の心霊スポット探索をしている『ゾゾゾ』とか」

近藤「おお、『ゾゾゾ』は『捨てられた心霊写真』とか、すごいですよね。心霊スポットに捨てられた空き家の写真っていう、小さな発見からどんどん話を広げていて、ものすごく怖い」

高橋「うん。レベルが高い人が撮っているよね」

近藤「日本ホラー映画大賞のほかの受賞監督の方とかと話したりすると、『ゾゾゾ』は結構当然のように見ている人が多くて、話題になるんですよ」

世界市場で求められているホラー映画は、クリーチャーが登場する作品だという(写真は『エイリアン』)
世界市場で求められているホラー映画は、クリーチャーが登場する作品だという(写真は『エイリアン』)[c]EVERETT/AFLO

高橋「プロデューサーの一瀬隆重さんとかに見せると、『力があるのはわかるけど、いま求めてるのはこれじゃないんだ』って言うんだよね。Netflixとか世界市場が求めてるのは、ってことですけど。僕が脚本を担当したNetflixの『呪怨:呪いの家』も、日本では一定の成績をあげたけど、世界に求められているものを用意しないと次がないという感じがする。クリーチャーが出てくる、アメリカンなモノとかね。『エイリアン』とか『遊星からの物体X』とか。韓国とか台湾とかのホラーはやっぱりそういう作品だよね。金かかるじゃんって思うんだけど(笑)。そういうのにならないと世界市場に行かないという感触がある」

近藤「なるほど。世界市場的に求められるのは、やっぱりそういう作品なんですね」

「日本のホラー映画にも、低予算でいいから新機軸の作品が出てきて欲しい」(高橋)

あるカルト教団にまつわる実話から着想を得ているという『呪詛』
あるカルト教団にまつわる実話から着想を得ているという『呪詛』Netflix映画『呪詛』独占配信中

高橋「一方で台湾ホラーの『呪詛』が当たってるのは悔しいよね(笑)。日本でも『死霊館』とか、アメリカの心霊系の主力が来てももうひとつヒットしないよね。『哭声/コクソン』とかも、韓国では大ヒットだけど日本ではあんまりだし。そもそも邦画でも、中村義洋監督の『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』とかもあんまりヒットしてない。『残穢』なんかは、絶対後世に影響を与える作品なのに。中島哲也監督の『来る』とかは、『哭声』のマネっぽいかな?って思ったけど、いまにして思えば結構新しいことをやろうとしていたよね。そんななかで、清水(崇)君の『恐怖の村』シリーズと、中田(秀夫)さんの『事故物件 恐い間取り』とかはちゃんとヒットしてる」

近藤「『犬鳴村』は僕も観ていて怖かったし、映画館で一緒に観ていたほかのお客さんも怖がっていて、いまでもJホラーの幽霊表現が現役なんだ!という感動がありました」

高橋「清水君や白石晃士さんは、僕たちのような初期の人がやった表現を更新していったわけだよね。でも、世界では割と新しい才能が現れ始めているなかで、日本では清水君たちの先を行く、ジョーダン・ピールみたいな人や作品がなかなか出てきていないはなぜなのかっていう」

近藤「昨年の日本ホラー映画大賞で、清水崇監督が『僕らみたいな20年前の作家に頼っているような業界ではいけない』とコメントされていました」


高橋「自分ながら思うのは、僕や黒沢さんがわけのわからないのを作ってたのがいけないっていう(笑)。怖さを追求していった時に、どんどんわけのわからない方向に突き進んでいったけど、僕らがもっと一般性のあるものを作っていたら、もっと産業としての基盤が広がって、その上に乗っかって若い人が作れるっていうことがあったんじゃないかって。だから、割と前から言ってるんだけど、『イット・フォローズ』みたいな新機軸のものが、低予算でいいから出てきて欲しいっていうことですよね。おもしろそうだったら、多少お金をかけてやるっていう動きが生まれたらいいなって。日本ホラー映画大賞もそういう試みなんだと思います」

第2回日本ホラー映画大賞は10月3日(月)より募集がスタートする
第2回日本ホラー映画大賞は10月3日(月)より募集がスタートする冨安由真『Sisters』[c] Yuma Tomiyasu, photo by Ken Kato

近藤「第1回日本ホラー映画大賞の発表があった時、まさにそう感じました。大賞は商業映画デビュー、だから自分たちが新しいホラー映画を日本から発信するチャンスなんだと。これから第2回日本ホラー映画大賞に応募する方が作品を作るのにあたって、どんなことを考えて作っていけば良いと思いますか?」

高橋「例えばジョーダン・ピールのインタビューを読んでいると、上流の黒人家庭で育って、街を白人と一緒に歩いていて、路上でホームレスみたいになっている黒人を見ていた、っていうすごい状況がベースにあるなんですよね。そういう自分が抱えていたものや、自分の根源から出てきているものを2本の映画(『ゲット・アウト』『アス』)にした。置かれた環境を自分の表現に昇華させたっていうのは絶対に強い。だから、応募してくる皆さん、あなたの“根源”はなんですか?っていうことしかないですよね」

近藤「これからの怖い映画を作るための重大なヒントになりそうです。ありがとうございました」

2時間にわたってホラー談義を繰り広げた高橋監督と近藤監督
2時間にわたってホラー談義を繰り広げた高橋監督と近藤監督

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最後に高橋監督が投げかけた言葉は、まさに高橋監督の作品を観て感じる恐怖の本質を表していると思う。僕が高橋監督に最も影響を受けている点は、常に恐怖に挑み続け、借り物じゃない恐怖への感覚を表現する姿勢そのものだ。

僕は第2回日本ホラー映画大賞にも挑戦するつもりでいる。しかし、ほとんど全身全霊で恐怖を表現したつもりの第1回から、次はなにをすればもっと怖いものが生まれるのか途方に暮れてもいた。しかし、『ザ・ミソジニー』を観て、高橋監督の言葉を聞いていくと、まだまだ表現し尽くされていない怖い映画というのは生みだせるような気がしてくる。

これから僕たちは高橋監督すら超えなければならないのだ。そのために、これからも何度も自分に問い続けなければならない。

あなたの“根源”はなんですか?

取材・文/近藤亮太

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