初めて出歩いた“夜”を思い返す「よふかしのうた」、アニメーションが表現する照らされた宵闇
あなたは初めて夜に出歩いた時のことを覚えているだろうか。そこがどんな場所だったかは問題ではない。あなたがその時、“夜”という場所をどう感じたか、周囲の風景がどう見えていたかだ。この夏、そんな“夜”をキーにしているアニメ作品が放送されている。恋をしたことのない少年が、吸血鬼に恋をしていく「よふかしのうた」だ。
そこで本稿では、「よふかしのうた」の紹介を行うとともに、同作で描かれる“夜”について解説していきたい。
“夜”に居場所を感じた少年が恋を知ろうとしていく「よふかしのうた」
女子が苦手でなんとなく不登校中だった中学2年生の夜守コウ(声:佐藤元)は、眠れない夜が続いたある日、初めて夜に一人で外出し「ここが自分の居場所なんだ」と思う。不思議な少女、七草ナズナ(声:雨宮天)に声を掛けられたのは、コウが夜の自販機が眩しいと感じた時だった。眠れないと言うコウにナズナは断言する。「人が夜ふかしをするのは今日という日に満足していないからだ」、「ここは夜だぜ。自由の時間だ。自分を解放させないと満足なんかできないぜ」。このあと、コウはナズナの部屋に誘われ、彼女が吸血鬼であること、人が吸血鬼になるには吸血鬼に恋をしたうえで血を吸われないといけないことを知る。そしてコウは決意する。「俺を吸血鬼にしてください」、「俺に恋をさせてください」と。
恋を知らない少年が恋を知ろうとする決意、それは少年が大人へと歩んでいく一歩と言える。そのきっかけは、吸血鬼という異物に出会ったからだろう。しかし、作中の言葉を借りるなら「日常から外れた夜」に居場所を感じた部分がより大きいのではないかと私は思う。
夜が日常から外れているのは、人の活動がおもに昼だからではない。今作の舞台になっている街は、駅前の通りも広く大型のビルもいくつかあり、コウの住まいは団地。昼間なら雑踏と呼ばれるくらいには人がいる場所だろう。そんな場所から夜というだけで人がいなくなる。大勢の人がいる場所が苦手だったコウは、そんな“夜”に解放感だけでなく、いつもとは違う風景…異世界に迷い込んだような、まさに“日常から外れた”ワクワク感を感じたのだ。