初めて出歩いた“夜”を思い返す「よふかしのうた」、アニメーションが表現する照らされた宵闇
日常から外れた“夜”を描いたアニメーション
振り返ると、アニメーションでは様々な夜が描かれてきた。自分が最初に感じた“日常から外れた”夜は、1972年から放送された「正義を愛する者 月光仮面」だった。通常は青みがかった空に星が煌く普通の夜空なのだが、怪奇な事件が起こったり月光仮面が登場しアクションが始まると、時に赤や黄色や白などが波状に塗られた空間になるのだ。1974年の「キューティーハニー」では、敵であるパンサークローとの戦いが始まるとなぜか投光器が登場し、舞台のスポットライトにも似た色鮮やかな光の線が描かれた。
この2作に限るわけではなく、こういった通常とは違う場面への転換に1960年代後半に流行したサイケデリックな色合いを利用した演出はほかの作品でも見られた。と同時に、こういった手法から夜をどう表現するかという制作現場の試行錯誤を感じることもできる。
制約のなかで、いかに“夜”を表現していくのか
アニメーションにおける夜の表現は時代によっても違っている。デジタルで色が塗られていなかった時代。アニメーションを作るにはセルに筆で色を塗らなければならなかった。その色数は無限ではなく、手作業で塗り間違いが起きないように、また補充するたびに現場で混ぜて作らないといけない特別なものだと色斑が起きてしまうため業者で作り置きできる色が基準とされ、各作品ごとに色数は制限されていた。テレビ受像機側の問題もある。いまのように黒い影のなかに黒い物体を置いても見えるような解像度や細密な色の表現もできない。そこで編みだされたのが、夜用の色指定だ。簡単にいうとキャラクターの色味を設定する時、通常の昼バージョンとは違い青系のフィルターをかけたような夜専用の色指定を作っておくのだ。
もちろん背景はセルではなく画用紙のような大きな紙に筆で描いているのでそこに色の制限はないが、上記の理由で制限されたキャラクターの色に合わせた背景にしないといけないため、夜だから黒でよいという単純なものではない。例えば、1974年放送の「宇宙戦艦ヤマト」の宇宙は青く、のちのちのシリーズでは少し黒い部分が入ってくる。その時々の条件のなかでもっとも相応しい表現を模索している一例と言えるだろう。
夜の闇をしっかり描こうとすると見せたいものまで見えなくなってしまうという悩みは実写作品でも同じだ。昼に撮影し、のちの処理で夜に見せる擬似夜景という方法はそれこそモノクロフィルム時代からあるが、現在公開中の映画『NOPE/ノープ』でもそれを発展させた方法で撮影が行われたという。
照明を見せるのではなく、照らされた外壁を見せる
色以外にも変わった部分がある。以前、高層ビルの夜景は窓の灯りとビルの最上部に設置される航空障害灯をメインに表現するのが一般的だった。だが昨今では、照明に照らされた外壁も見せるようになっている。かなり前になるが、東京タワーのライトアップ方法が変わったとニュースになった時があった。簡単にいうと照明を見せるのではなく、照明に照らしだされた鉄骨を見せる形へと変わったのだ。鮮やかな色のライトに照らされた工場や高架橋の夜景が話題になった時期もあるが、今作の夜景がそれらに近いと言えばわかってもらえるだろう。