初めて出歩いた“夜”を思い返す「よふかしのうた」、アニメーションが表現する照らされた宵闇

コラム

初めて出歩いた“夜”を思い返す「よふかしのうた」、アニメーションが表現する照らされた宵闇

光で演出された空間が、主人公が感じた“居場所”

街頭の灯りが、夜一人で出歩くコウを包む
街頭の灯りが、夜一人で出歩くコウを包む[c]2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会

“日常から外れた”感覚をよりいっそう感じてもらうため、「よふかしのうた」では多くのシーンで「色鮮やかな夜景」が登場する。オレンジ、紫、緑などなど、ネオンのようにカラフルな光源(街灯など)を配置し、それらに照らされた建物にも同じ色を乗せている。よく見ると、街灯と同じ色が実際には届きそうもない建物の範囲にまで及んでいたり、天の川や星々も同じような黄色や青や紫で描かれている。家庭の窓の灯りや街灯だけでなく、見せる夜間照明やライトアップがプラスされた夜景を、闇が覆う神秘的な空間ではなく、光で演出された煌びやかな空間で描く。それが夜守コウが感じた自分の居場所としての“夜”なのだ。

あるものをあるがままに写し取るだけでなく、セリフや動きにキャラクターの心象やシーンとしての意味合いを組み込んでいるのが映像作品だ。その意図は背景にまで及んでいる。黒澤明監督が「あの雲をどけろ」と言った話が有名だが、「正義を愛する者 月光仮面」や「キューティーハニー」にも、もちろん「よふかしのうた」の根底にも同じ理屈が流れているといっていい。


静かで人一人いない住宅街だが、コウにとっては解放される時間
静かで人一人いない住宅街だが、コウにとっては解放される時間[c]2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会

誰もが思い浮かべる蛍光灯の青白い灯りで表現された夜と、ネオンサインのように鮮やかな夜。誰もいない夜と、誰かがいる夜。そんな「よふかしのうた」の夜を見ながら、あなたが初めて感じた“夜”を思い返してみてはどうだろうか。

文/小林治

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