最初で最後の“2人旅”『マイ・ブロークン・マリコ』、叶わなかった未来を想像してしまう『プリンセス・ダイアナ』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、タナダユキが監督を務め、永野芽郁がパブリックイメージを覆す熱演で挑むドラマ、ダイアナ元皇太子妃の婚約から悲劇の死までを貴重映像とともに振り返るドキュメンタリー、水田伸生監督が阿部サダヲと再タッグし、迷惑だけどまっすぐな男の奔走を描くヒューマンドラマの、登場人物の感情が胸に刺さる3本。
がむしゃらに突き進んでいく姿が愛おしい…『マイ・ブロークン・マリコ』(公開中)
大反響を呼んだ平庫ワカの人気コミックを『浜の朝日の嘘つきどもと』(21)のタナダユキ監督が実写化。幼い頃より父親の虐待を受けてきたマリコは壊れた自分を必死につなぎ止めながら生きてきた。そんなマリコの心のよりどころが幼馴染の“シイちゃん”ことシイノ。テレビのニュースでマリコの転落死を知ったシイノは、彼女の遺骨を毒親のもとから奪い、海へと向かう。本作は、遺骨になったマリコとシイノの最初で最後の“2人旅”を描いた疾走感あふれる物語だ。
中学時代から喫煙習慣のあるシイノもまたなんらかの事情を抱えていることは想像に難くないが、そんな彼女が唯一無二の存在であるマリコを最後まで救いだそうとがむしゃらに突き進んでいく姿が愛おしい。ぶっきらぼうだが愛情深いシイノを全身全霊で体現したのは永野芽郁。シイノの悲しみと裏腹の膨大なエネルギーには圧倒されるはず。また、笑顔の下に脆さが見え隠れするマリコを演じた奈緒の儚さ、そして旅先でシイノの世話を焼くマキオに扮した窪田正孝の飄々とした佇まいもいい!
(映画ライター・足立美由紀)
人々が哀しみに暮れる様子には改めて驚くばかり『プリンセス・ダイアナ』(公開中)
衝撃の交通事故死から25年。その劇的な人生を振り返るうえで、これは最適なドキュメンタリーだ。19歳のダイアナがチャールズ皇太子と婚約。世界中に注目されたロイヤルウェディングから、王子たちの誕生、皇太子との離婚、そして36歳での非業の死までを、わかりやすく追っていく。
当時を知る人には懐かしい映像もたっぷり出てくるが、息子との運動会を楽しむホームビデオやスターとの交流など貴重な瞬間もたっぷり。先日、亡くなったエリザベス女王の姿は、しみじみと感慨深い。
最も心が動かされるのは、イギリス国民から受けた愛情。シンデレラストーリーへの熱狂、髪型やファッションがカルチャーに与えた影響、そして人々が死の哀しみに暮れる様子には改めて驚くばかり。
ダイアナといえばパパラッチとの関係が有名だが、マスコミを嫌いつつ、逆利用しようとした彼女の複雑な心境も伝わってくる。いまも生きていれば、孫たちとどんな関係だっただろうと、叶わなかった未来を想像してしまうはず。(映画ライター・斉藤博昭)
コメディ作品かと思いきや後半はしっとりした展開…『アイ・アム まきもと』(公開中)
見知らぬ老人の死をきっかけに生きることを知り、孤独だった生活が彩られていく男性のヒューマンドラマ。牧本は孤独死した人を埋葬する区役所の「おみおくり係」。経費削減で係が廃止されることになり、最後の仕事のために奔走するうち、名も知らぬ老人が実は多くの人に愛され、感謝され、世界を少しだけ変えていたことに気づく。
牧本を演じるのは阿部サダヲ。「マルモのおきて」の優しいお父さんから、『死刑にいたる病』(22)のサイコパスまで、善も悪も演じられる個性派俳優だけに最初はこのけったいな牧本が一体、どういった人物なのか、図りかねる。だが、『舞妓Haaaan!!!』(07)、『謝罪の王様』(13)と阿部の個性を知り尽くした水田伸生監督の作品だけあり、次第に牧本の虜に。まるで空気が読めないわ、人の話は聞かないわ、それでも憎めない。特に松尾スズキとの息の合ったやり取りは何度見ても笑える。
コメディ作品かと思いきや、後半は邦画らしい、しっとりした展開に。原作がまさか『おみおくりの作法』(13)だったとは。してやられた。(映画ライター・高山亜紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼