「ハコヅメ」原作者は、戸田恵梨香&永野芽郁共演『母性』をどう見たのか?「理性的な母親でいたいと強く思いました」
「『この瞬間が一番幸せなんだろうな』と、戸田さんの演技で視覚的によくわかりました」
本作ではルミ子と清佳以外の母娘の関係も描かれている。そのなかでも印象的なのが、大地真央演じるルミ子の実母。娘のすべてを肯定し、ルミ子が妻、母親となってからも常に彼女の支えになる頼もしい存在だが、結果としてルミ子は、狂信的なまでに母親に依存してしまう。「大地さん演じる母親って、世間が求めている理想的な“母性”を持つ女性ですよね。育て方も、まったく間違ってはいなかったと思うんです」と泰も肯定的に捉えているが、“理想”であるがゆえにルミ子に与えた影響の大きさにも言及する。
「あんなふうに愛情を注がれても、どこかで道を間違える、角度が変わってしまうという危うさは、人間誰でも持っている部分なのかな。たしかに普通の母娘関係ではなかったと思います。ルミ子が母親と接している時の恍惚とした目から、『ああ、この瞬間が一番幸せなんだろうな』と、戸田さんの演技で視覚的によくわかりました。人間の本能的なところで、その感覚をずっと追い求めたい、母性を追い求めてしまうようになってしまったのだと思います」。
では、ルミ子のように母親を崇拝するような気持ちは共感できるものなのだろうか?
「私は3人兄弟の真ん中で、なるべく親に迷惑をかけないように、優等生でいようとずっと考えて生きてきたので、ルミ子の気持ちに共感できるところはありました。親からも『あなたは手が掛からなくていいわ』とよく言われていたので、それがモチベーションになっていたというか…。ただ、『自分が母親になって感じた母性と、小さいころから感じていた母性って、同じものなのか?』と考えることもありました。本作は、それをすごく問いかけてくる、突きつけてくる映画でした」。
「母性の形は人それぞれだし、溺愛する形もあれば、必要最低限の義務を果たす形もある」
泰の言葉どおり、“母性”の在り方を定義づけするのは容易なことではない。「難しいですよね。ただ、母性をすべての母親に無理強いしてはいけない、と強く再認識しました。母性って、人間として必ず備わっている性質ではないと思うんです。母性の有無で誰かを責めるのは、いまの社会的にもよくないと感じました。私から見ると、ルミ子は世間の人から求められるような母性はなかった人だと思います。求め続けるあまり、彼女のなかには自分が求めた形の母性が宿らなかった」。
母性にあふれた母親に育てられながら、同じものを娘に注げないルミ子の矛盾。しかし、必ずしもそれが誤ったことではないという解釈もできる。「母性の形は人それぞれだし、溺愛する形もあれば、必要最低限の義務を果たす形もある。世間的には大地さんが演じたルミ子の母親のような献身的な母性を求めているかもしれませんが、それがすべてではない。というか、個人的には本作を通して、理性的な母親でいたいな、と強く思いました」。
「清佳は母親が気に入るような行動を、歯を食いしばってすぐにやっている」
ルミ子が強烈な印象を残す一方で、「抱きしめたくなった」と泰が前述していた清佳はどのように映ったのだろか?「ルミ子に『あなたの手、生温かくて気持ち悪い』と言われた清佳が手を洗うシーンとか。私なら洗わないだろけど、彼女は洗ってしまうんですよね。清佳は母親が気に入るような行動を、歯を食いしばってすぐにやっている。その姿が悲しくて…。まだ高校生ですから、母の愛がほしいのは当然だし、その悲しさに胸が痛くなりました」。ルミ子から冷たくされても、理想の娘として振る舞い続ける清佳もまた、“母性”に囚われてしまい、そこから抜けだせない。
某県警に10年間勤務後、2017年に漫画家に転身。警察官時代の経験を活かし執筆した短編「交番女子」が掲載された「モーニング」誌上で、同年11月より「ハコヅメ ~交番女子の逆襲~」の週刊連載をスタート。2021年には戸田恵梨香、永野芽郁主演で「ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜」としてドラマ化を果たし、話題に。単行本最新22巻が発売中。
・講談社「ハコヅメ ~交番女子の逆襲~」:https://morning.kodansha.co.jp/c/hakozume/
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