「お化け屋敷のような、みんなでわいわい楽しめるホラー映画に」『カラダ探し』羽住英一郎監督インタビュー
「“高校生が見ても怖い子ども”を体現するため、試行錯誤を重ねました」
この作品内での「怖さの表現」へのこだわりを訊くと、「映画にはセオリー的な怖さがあります。このカットがこれだけ長いってことはきっとなにかがあるって予想がついてしまう(笑)。観客の過去に映画を観た時の経験によりミスリードできる部分もおおいにあったりして、今回はそんなホラーマニアも楽しめるテクニックも取り入れつつそれに加えて、誰もが怖いと感じたことのあるものを大事にしました。例えば、修学旅行の夜にみんなで怪談話をしてた時にみんなが眠ってしまって一人だけ取り残された時の不安感とか、暗いところを一人で歩いている時にふと感じる怖さとか。なんとなく誰もが感じたことのある怖さのほうが、ホラー映画を初めて観る人には伝わる気がしたので」と自身の経験を交えて解説してくれた。
本作に恐怖の象徴として登場する「赤い人」。最終的なルックにいたるまでにはかなりの試行錯誤があったという。「赤い人の表現は本当に難しかったです。現実では高校生たちが小さい子どもを見て怖がることはほとんどありません。見た目から恐怖を感じる存在にするために何度もテストを重ねました。北九州でのロケ直前までいろいろな形を試したのですが、結局、現地に入ってからもテストを繰り返す日々でした。赤い人は圧倒的に強くなければならない。高校生と対峙して小さい子どもが怖く見えるためにはどう表現すればいいのか。そこで思いついたのが激しいアクションです。相手が考える暇を与えないくらい、スピード感のあるアクションと“間(ま)”でメリハリをつけることで、高校生が体感する恐怖を表現しようと考えました」。ストレートにホラーが好きな層にも満足してもらえると胸を張る、赤い人の最終形態については「僕が一番こだわったのは質感と大きさです。ベースとなったぬいぐるみのボロボロ加減や、主人公たちが対峙した際のサイズ感などに注目してもらえればと思います」とこだわりポイントを明かした。
試行錯誤した赤い人とは違い、原作以上の怖さを纏ったエミリー人形の表現はすぐに決まったようだ。「制作には時間がかかりましたが、形自体はすぐに決まりました。お母さんの手作り人形だというコンセプトで、本人もすごく大事にしているもの。僕が怖がりだからかもしれませんが、見ようによってはそのこと自体が怖さに広がりを与えると思いました。コロナ禍で撮影が延期になったけれど、そのおかげでエミリー人形をはじめ、小道具や美術のデザインにたっぷり時間をかけることができたのは、映画にとってはよかったのかな」と撮影延期がもたらした影響に触れた。
主題歌「行方知れず」と挿入歌「リベリオン」を歌うのはAdo。「行方知れず」は椎名林檎が作詞、作編曲を担当という豪華コラボが実現した。「ループものを描くと、どうしても繰り返される主人公たちの死に飽きてしまう人も出てきます。『どうせ、殺されてもまたループして生きてるんでしょ』と、殺されることに怖さを感じなくなるのは避けたい。その問題をクリアするには、死に方を派手にして映像的に様式美として観られるものにすることが大事。そこで、分割画面にして印象的な音楽をつけようと最初から考えてました。主人公たちは高校生。映画も若い人たちに観てほしいという思いがあり、彼らに刺さる楽曲に…と考え、Adoさんと、様式美、世界観の表現が抜群にうまい椎名林檎さんにオファーさせていただきました」と、起用の経緯を説明した。
インタビューでは何度も「若い人に向けて」と口にした羽住。若い世代の映画離れの原因として上映時間が挙げられることも多いが、そのあたりへの対応策は施したのだろうか。「僕の子どもは小学生なのですが、2時間もの間、集中力を維持してもらうのはなかなか大変です(笑)。YouTubeやTikTokの圧倒的に早いテンポ感に慣れている世代に飽きさせずに楽しんでもらう工夫はかなり盛り込んでいます。先程の挿入歌の部分をPV的に見せる演出もそうですが、一番大事にしたのはホラーと青春のコントラストです」と強調。昼間の青春パートと夜になって繰り広げられるホラーパートのギャップを、ジェットコースター感覚で楽しめることをアピールした。
取材・文/タナカシノブ