黒沢清が夢見るJホラーの理想は「怖さと美しさの両立」ホラー映画の“美学”をふたつの観点から徹底的に語り合う!

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黒沢清が夢見るJホラーの理想は「怖さと美しさの両立」ホラー映画の“美学”をふたつの観点から徹底的に語り合う!

第35回東京国際映画祭の共催・提携企画である、第19回文化庁映画週間のシンポジウムが28日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qにて開催。今年のテーマは「恐怖映画の美しき世界」。12月13日(火)より国立映画アーカイブにて行われる展示企画「ポスターでみる映画史 Part4 恐怖映画の世界」と連動し、第1部は「アートワークで魅せる美しき恐怖映画」、第2部は「世界に伝播するジャパニーズホラーの美学」と題してトークが進められていく。

第1部は「アートワークで魅せる美しき恐怖映画」!ホラー映画のポスターについて語り合う
第1部は「アートワークで魅せる美しき恐怖映画」!ホラー映画のポスターについて語り合う

第1部に登壇したのは『ミッドサマー』(19)などのポスターを手掛けたアートディレクター・グラフィックデザイナーの大島依提亜と、『孤狼の血』(18)や「恐怖の村」シリーズのポスターを手掛けたアートディレクター・グラフィックデザイナーの葛西健一。

ルカ・グァダニーノ監督版の『サスペリア』(18)で初めてホラー映画のポスターを手掛けたという大島は、「オリジナルの『サスペリア』の日本版ポスターがレジェンド級にすばらしいものなので、そのお話をいただいた時に恐縮してしまい、割と最近までその仕事をしたことさえ怖くて言えませんでした」と明かし、同作や『ミッドサマー』などで実践したオルタナティブポスター制作に込めた思いを語る。

「海外では主流で、いつか日本でもやりたいと思っていました。SNSやインターネット上には様々なファンのレイヤーがあり、往年の映画ファンからほとんど映画を観ない人までいる。それをひとつのポスターで集約させるのは不可能なことです。色々なポスターがあれば、SNSなどで好きなポスターと一緒に感想を投稿してもらえたりレンジが広がります」。

『サスペリア』や『ミッドサマー』など、A24作品のポスターを手掛けた大島依提亜
『サスペリア』や『ミッドサマー』など、A24作品のポスターを手掛けた大島依提亜

一方で、普段ほとんど映画を観ないという葛西は「客観視して、普段映画館に行かない人間がどうやったら映画館に行くのだろうかと考えながらやっています。映画っぽく作らなきゃという意識はなく、どう作るかよりもなにを見せるか。どういうモチーフにしたらおもしろくなるかということを考えています」と、広告制作で培った手腕を映画ポスターにも活かしていることを明かす。

そんな葛西の代表作と呼べるのは、ぼんやりと浮かび上がる顔がSNSなどで話題を集めた『犬鳴村』(20)のポスターだ。「宣伝プロデューサーの方と話をしていくなかで3つのキーワードが出されました。ジャパニーズホラーであることと、怨恨や怨念、その土地に根付くタブーが土台にあること。そして若い世代、特に女子高生に興味を持ってほしいということ。なにかデザイン的なおもしろさを全面に押し出したビジュアルを作っていけば、SNSで拡散されて話題になるんじゃないかと思いました」とその制作秘話を告白。

かつては映画館や街中に掲示されるものだった映画ポスターは近年、ネット上で閲覧されることが当たり前になっている。それだけに「当然SNSを意識して作っています」と話す葛西は、「わかりやすすぎても出オチ感があるし、わかりづらすぎても誰にも気付かれずにスルーされてしまう。完成に行き着くまでに何10パターンも作り、10人が見たら3、4人が顔であると気付いてくれるようなさじ加減に落ち着きました」と振り返った。


「恐怖の村」シリーズなどのポスターを手掛けた葛西健一
「恐怖の村」シリーズなどのポスターを手掛けた葛西健一

第1部の終盤で2人は、展示企画「ポスターでみる映画史 Part4 恐怖映画の世界」のなかからお気に入りのホラー映画ポスターをいくつか紹介。ロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』(68)のポスターが一番好きだという大島は「ビジュアルの強さもタイトルの小ささも憧れです。怖いながら美しい完璧なポスター」だと惚れ惚れした様子。さらにホラー映画の王道である『エクソシスト』(72)から、アルフレッド・ヒッチコック監督の『鳥』(63)やジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』(91)のようなサスペンス映画、市川崑監督の『犬神家の一族』(76)のような日本映画のポスターについても語られていく。

そしてスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(75)のポスターがスクリーンに投影されると、2人は声をそろえ手放しで絶賛。葛西は「解説不要です。この映画がどういうものかすべてがわかる」とそのデザイン性の高さを解説し、大島も「映画ポスターのマスターピース。このポスターには全然敵わないんだといつも思っています」と偉大な一枚へのこの上ない敬意を示した。

大きく羽ばたく「第35回東京国際映画祭」特集

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