是枝裕和×橋本愛が語り合う、日本映画界にいま求められる“改革”「変わり続けることってとても大事」
現在開催中の第35回東京国際映画祭で10月31日、「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」が開催。今年で3年目の開催となる当企画の発案者であり、検討会議メンバーの一員でもある是枝裕和監督と、昨年に引き続きフェスティバル・アンバサダーを務める橋本愛が登壇した。
「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」は、国内外の映画人がそれぞれのテーマでトークを繰り広げる対談企画。一昨年は『台北暮色』(17)を手掛けたホアン・シー監督と、昨年は台湾の名優チャン・チェンとオンラインで対談した是枝監督。また橋本も一昨年は『はちどり』(18)のキム・ボラ監督と、昨年はイラン出身のバフマン・ゴバディ監督とオンラインで対談。共にこの「交流ラウンジ」に毎年参加している2人が、いま現在の日本映画界に求められる“改革”をテーマに語り合った。
「環境が整っていない方々のほうが、声を上げるのは難しい」(橋本)
是枝「アンバサダーを務めるのは何年目?そのようなポジションで映画祭に関わるというのはどんな気分でしょうか」
橋本「2年目になります。去年は映画祭の存在を広める役割として活動していましたが、今年はアンバサダーといってもあまり出番があるわけでもないので、俳優として自分が思っている気持ちを発信していく場にしていけたらなと思って取り組んでいます。すごく緊張してしまうことばかりですが、そうした発信にとても良い反応が返ってきたので有意義に感じています」
是枝「具体的にどのような反応がありましたか?」
橋本「いま表立って取り沙汰されている現場でのハラスメントや労働環境について敏感に感じ取ってもらえたり、発信することの大切さや重要性を感じ取ってもらえたり。時代の良い流れ、吹いている風を感じることができました」
是枝「そこで早速本題に入りますが、僕自身も映画界に改革が必要だという意識を常に持っているのですが、出演する側から見て、具体的にここを変えたほうがいいというところはありますか?」
橋本「やっぱり撮影時間が短くなるとうれしいなというのが率直な気持ちです。睡眠や休息と、お仕事とのバランスの釣り合いがとれると、パフォーマンスやアウトプットの精度も上がると思います。それはスタッフさんたちも同じで、いつも現場が終盤に差し掛かると生気が落ちているのを感じています。まとまった休みがあれば、新たな気持ちで望めたり、効率も上がるのかなと」
是枝「そうですね、僕もまずはそこだと思っています。いろいろハラスメントの問題もありますが、韓国で実際に現場を経験してみて、とにかく穏やかだと感じたんです。休みが多く、ちゃんと寝てちゃんと食べると人は怒鳴らなくなる。それが徹底されていました。実際監督というのは撮りたい人ばかりで、休んでいてモチベーションが維持できるのかと不安になってしまう。でも休んだほうが明らかに効率がよくなる。
日本にはまだ精神論というかある種の幻想があって、そこに頼っていたのでは改革は進まない。なので韓国での取り組みをなるべく日本でみんなに話すようにしています。例えば韓国では撮影の休みの日があらかじめ決められていて、スタッフもキャストもそこに別の予定が入れられる。それ以外に撮影の状況を見ながら休みが入ってくるので、撮影中に3連休になったりして完全にリフレッシュができる。日常のなかに撮影があって、その延長線上に作品ができてくる。日本の撮影にある祭りのような一体感が好きな人もまだまだ多いし、それ自体は悪いことではないけれど、働く人にとっては8時間で終わって家に帰れたほうがいいに決まっています」
橋本「そうですよね」
是枝「あと性別で括るのはあまり適切ではないかもしれませんが、フランスや韓国では女性が働く環境がとても豊かでした。その辺りについてなにか感じるところはありますか?」
橋本「いまは日本でも、子どもがいたり家庭を持つ女優さんへの環境が徐々に整ってきているように感じています。それでもまだ行き届かないところはあって、そのぶんお子さんとの時間が削られてしまうことはあると思います。子どもの成長を見るというかけがえのない時間を保護していくことはとても大事なことです。それに私自身はまだまだ恵まれているほうだと感じています。そうではない人のことに目を配ると、もっと等しくなってくれたらうれしいなと思うことばかりです」
是枝「自分が恵まれていると感じる立場の人間が、その問題に気付けるということはとてもすばらしいと思います」
橋本「環境が整っていない方々のほうが、声を上げるのは難しいと思います。自分に与えられたものをきちんと把握しておかなければ、ただの甘えた人間になってしまう。恵まれている分だけ、それを社会に還元していかないといけないと気を付けています」