是枝裕和×橋本愛が語り合う、日本映画界にいま求められる“改革”「変わり続けることってとても大事」
「本当に貴重な財産になりました」(橋本)
是枝「今回Netflixの配信ドラマで『舞妓さんちのまかないさん』という作品を監督させていただいて、23年1月12日から配信がスタートします。橋本さんにも出演していただきましたが、撮影に向けて綿密に準備をされていて、すごくちゃんとしているよねって思いました」
橋本「ありがとうございます(笑)」
是枝「いつもあのように、やるべきことをやってから現場に臨むんですか?」
橋本「最近はそれがスタンダードになっていますね。ここ最近ようやく力の抜き方も覚えてきて、うまくパワーバランスを注げるようになってきたんです」
是枝「今回は芸妓さんの役で、“京舞”という舞をやっていただいて。家元の先生にはどのくらい通われたのでしょう?」
橋本「それが全然で、5月頃から半年ほどでした」
是枝「これがとても厳しい家元さんで、人間国宝の方が直接指導してくれたのですが、お稽古が終わると泣いている子もいて。こんなに厳しく叱られたことがないと。そばで聞いていて、これは大変だなと思いました。でもよくみんな耐えてくれて形になっていました。橋本さんは途中からなにも言われなくなりましたよね?」
橋本「私が覚えているのは返事をしたら怒られたということと、夏だったので暑さと汗がすごかったことぐらいで(笑)。でもとても楽しくて、私はもともと厳しいお婆ちゃんが大好きなんです。自分の祖母と重なることがあって、他の作品でも所作指導などをしてくださる先生たちやお師匠さんには最大限の敬意を払いながら、ひとりのおじいちゃんやおばあちゃんとして接するようにしています。家元さんもとてもチャーミングな方で、その人柄も培ってきた技術や時間の密度も、本当に貴重な財産になりました」
「20年後ぐらいには海外でお芝居できるように」(橋本)
是枝「今回こうして映画祭をやっておりますが、新しい作品の編集中なのでなかなか通うことができなくて…」
橋本「私もやっと他の現場が落ち着いたので、明日か明後日にでも観客として観に来られたらいいなと思っています」
是枝「映画館好きですもんね。最近はなにか観ましたか?」
橋本「実は映画館に通いすぎてフィジカルを痛めてしまいまして…。姿勢が悪くなって肺が沈んで呼吸ができなくなったんです。体が映画館の椅子に合わせてしまって、もう体を鍛えなきゃなと(笑)。映画館の椅子も人間工学に基づいたデザインになってほしいです。この前、新文芸坐に行ったんですけど、今年はほとんど映画を観に行っていなくて。というのも、去年の『交流ラウンジ』でバフマン・ゴバディ監督と対談した際に、映画を観て感じることを発露する時に表層的になってしまっていると強く実感したんです。だからいまは映画と自分とがより接続されるように、音楽や本などの他の芸術に触れるようにしています」
是枝「それはすごく大事なことです。橋本さんは10年後や20年後の展望はありますか?」
橋本「できるだけ、死ぬまで女優をやりたいと思っています。それに本当に英語を勉強したいなと。『交流ラウンジ』で英語力の低さを痛感しましたし、昨年お会いしたイザベル・ユペールさんは英語もフランス語もお話しされて演技もできる。それはもう自分もやれというお告げだと思って、20年後ぐらいには海外でお芝居できるようにやっていきたいと思っています」
是枝「15年ぐらい前に、ペ・ドゥナさんとご一緒した時、彼女は英会話を始めて耳が良いって褒められたとうれしそうに話してたんです。いまや彼女の仕事は海外がメイン。ちゃんとやればって、全然しゃべれない僕が言っても説得力はないのですが、そういう役者さんが増えることは日本の映画界にとってもプラスになるし、選択肢が増えることだと思います」
橋本「いずれ日本での自分たちの立場が弱くなってくる可能性もありますから、海外も視野に入れていくことが重要ですね。まずは聞くことから始めています」
取材・文/久保田 和馬