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是枝裕和×橋本愛が語り合う、日本映画界にいま求められる“改革”「変わり続けることってとても大事」

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是枝裕和×橋本愛が語り合う、日本映画界にいま求められる“改革”「変わり続けることってとても大事」

「演じることに対してきちんと考える若い子が増えてきた」(是枝)

是枝「そのような考えを持つようになったきっかけは?」

橋本「ここ数年、徐々にだと思います。それまでは自分自身のことばかりで精一杯で、お芝居とか現場の佇まいに気を配れるほどではなかった。でも表現そのものが向上してきたことで、それまで他のところに注いでいたパワーを注ぐことができるようになったんです」

是枝「なにか作品との出会いや、人との出会いがあったのでしょうか?」

ここ数年で演技との向き合い方が変わったことを語る橋本愛
ここ数年で演技との向き合い方が変わったことを語る橋本愛[c] 2022 TIFF

橋本「きっかけになった出会いというと、『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』に出演させていただいた時に、成島出監督から改めてお芝居を一から教えてもらったことでしょうか。それまでは誰に教わるでもなく自己流で研究していて、自分がお芝居をできていないとジレンマがありました。ですが成島監督は専門的な観点から、お芝居というものを教えてくださり、そこからすごくやりやすくなりました。いままで自分は理想と逆のことをしていたんだなと、つくづく才能がないと感じました」

是枝「その“お芝居ができていなかった”という感覚について、もっと深く聞いてもいいですか?」

橋本「私は満島ひかりさんや深津絵里さんや樹木希林さんのように本質的な表現をされる方を理想にしていて、どこかで“嘘をつきたくない”という思いがずっとありました。他者になるということがどうしてもできなくて、それでも中途半端に評価されてきたから一から学びたいと言っていいのかとか、できる顔をしていなきゃいけないとか、自分の内と外のギャップがあったんです。でも成島監督から『本当に下手だな』と言われた時に、『やっぱりそうだ、良かった』と思えたんです。そこで初めて自分の感覚と、外から見た意見が一致して開けた気がしました」

是枝「キャリアのある方になかなか面と向かって『下手だ』とは言いにくいな…。でも時にそれが大きな開眼につながるのかもしれませんね」

橋本「下手と言われたくないと思う人は、たぶんそこまでなんじゃないでしょうか。私はずっと言って欲しかったんです」

是枝「最初の大きな役はたしか『告白』でしたよね。中島哲也監督がどう考えていたかはわからないけれど、橋本愛という存在をどう撮るかということが意識されていた印象を受けました。そのような作品が続くことはある程度仕方がない。そこから自分がお芝居とどう向き合っていくかを考えるようになるところが本当にすごいですね」

橋本「でも最近の若い人…って言い方はおかしいかもしれませんが、10代の方も20代の方も、皆さんデビュー当時からすごいお芝居をされているのを見て本当に驚かされます。自分はマイナスからのスタートだったんだなと…」

是枝「確かに最近上手い子が増えていますね。オーディションをやっててもわかるんです。事務所でトレーニングとかワークショップをやっているのでしょうね。変に手慣れてしまうのは良くないけれど、みんな本当に上手くなっていて、演じることに対してきちんと考える若い子が増えてきたように感じています。監督もそれに負けないように成長しなきゃいけないと思うぐらいで…(笑)」

「姿勢だけではなく、実態も伴わないといけない」(是枝)

韓国で手掛けた『ベイビー・ブローカー』が刺激となった是枝裕和監督
韓国で手掛けた『ベイビー・ブローカー』が刺激となった是枝裕和監督[c] 2022 TIFF


是枝「今度は世代の話をしようと思います。日本の映画界はなかなか若返りが図れていない。韓国では僕の世代はもう現場に立つ人がほとんどいないというのに、日本では60代でもまだまだ若手に扱われていたり。まあ日本に帰ってくるとまだ上がいるからってホッとしたりはするんですけど(笑)。これについても変えてほしいことってありますか?」

橋本「世代ひとつですべてを括ることはできなくて、是枝さんのようにいまの流れや動き、必要なことに目を向けてくれる姿勢がこちらとしては安心するしありがたいんです。逆を言えば、そうではない方には違和感を抱いてしまう。いまを見ていないでいまを生きている人に関しては、変わり続けていくなかで変わらないものと変わるべきでないものが違っていると思ういます。なにかを大事にされている気持ちは否定したくないですが、それによって誰にしわ寄せがきて、誰がこぼれ落ちているのか。この業界に限らず、変わり続けることってとても大事だと思います」

是枝「そうですね。自分がやってきて、なまじ成功経験があると離れられなくなる。でもそれがいつまでもどこでも通用するわけではない。映画の現場は特殊な閉鎖空間になりがちだから尚更そうだと思います。自分も監督をやっていると、現場でなにかを思いついて口にした時に、無理をしてまでそれをやってくれる人たちが周りにいます。なにかを提示するなら、負荷がかからないように提示することを考えていったり、まだまだ自分の現場でもやらなきゃいけないことが多いですね」

橋本「去年是枝さんの現場に入らせていただいた時に、印象的だったのは助監督さんが『本当に大変だけど是枝さんの純粋な映画への眼差しや思いに触れると、つい言うこと聞いちゃうんだよね』って言っていて。昔は作品至上主義に対して、個人の人生とか時間が犠牲になってきた。いまはそれをちょっとずつ取り返していこうという過渡期にあると思うんです。そういう気持ちがあれば、実態が追いつかなくても安心できる。それで安心して表現することができる」

是枝「もう姿勢だけで評価される立場ではないので実態も伴わないといけないんですけどね…」

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