「水星の魔女」の新味な魅力を分析!“決闘“システムが学園ドラマとガンダムシリーズの架け橋に
ガンダムシリーズとしては、2015~17年にかけて放送された「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」以来5年ぶりとなる「機動戦士ガンダム 水星の魔女」(以下「水星の魔女」)が放送中だ。
初の女性主人公、戦争を描かない世界観、学園を舞台としたストーリーなど、これまでのガンダムシリーズにはなかった挑戦的な要素を多く持つ作品であることが発表された際には、ガンダムファンの間でも賛否両論が巻き起こった。しかし、いざ放送がスタートすると、思わず引き込まれる物語の展開で絶賛の嵐。毎週日曜17時には、SNSのトレンドを席巻するほど、従来のガンダムファンはもちろん、ガンダムを初めて見る新たな世代にも受け入れられる話題作となっている。
本稿では「機動戦士ガンダム 水星の魔女」がガンダムシリーズにおいてどのような作品なのかや、これほど盛り上がっている理由を解説していきたい。
「機動戦士ガンダム」シリーズと「水星の魔女」
1979年に放送がスタートした「機動戦士ガンダム」から始まったガンダムシリーズは、放送開始から40年が経過するなかで、大きく2つの軸に分かれていった。
1つは、「機動戦士ガンダム」の舞台となった「宇宙世紀」を背景に、同じ時間軸の歴史を様々な時代ごとに描く流れ。もう1つは、劇中に登場する機体の名称が「ガンダム」と呼ばれるのは共通だが、それ以外のキャラクターや設定などは独立した世界観のもとに描かれる、「アナザーガンダム」とも呼称されるライン。
近年では、前者がOVAや劇場作品として主にコア層に向けて、後者がテレビシリーズとして新たにガンダムに触れる層に向けた作品として制作されており、「水星の魔女」は後者の流れにある作品。「アナザーガンダム」は、これまでのガンダムシリーズで描かれてきた、作品世界の根幹とつながる凝ったメカニック設定、世界観の作り込みや勧善懲悪ではない戦いの図式、戦争などの苦境のなかで成長する若者たちの群像劇という要素を継承しつつ、時代に即したテーマやストーリーを提示し、ガンダムシリーズへの入口としての役割を担っている。そうした要素は「水星の魔女」にも脈々と受け継がれているのだ。
大人の思惑と子どもの誇りが交錯する「水星の魔女」
本作の舞台となるのは、アスティカシア高等専門学園。モビルスーツ産業大手のベネリットグループが運営し、同産業に関わる人材を育てる学びの場となっている。学園には、ベネリットグループに所属する企業が後ろ盾をする寮や地球出身者用の寮が存在し、生徒たちは寮で暮らし、学校へ通って技術を学んでいる。そんな学園の独自のルールが「決闘」。生徒たちは金銭や栄誉など、互いに望むものを賭けてモビルスーツで戦うことを容認されているのだ。
なかでも、ベネリットグループ総裁の娘であるミオリネ・レンブランは、父の意思によって決闘の最優秀者=ホルダーと結婚しなくてはいけないという決定がなされており、彼女は父が一方的に決めたそのルールから逃れようと地球への脱出を試みる。そのタイミングで、辺境の地である水星から転入してきたスレッタ・マーキュリーは、偶然ミオリネと出会う。スレッタは、愛機のガンダム・エアリアルでホルダーのグエル・ジェタークに決闘を挑み、これに勝利。ホルダーとなったスレッタは、ミオリネの花婿として様々な謎と思惑が交錯する学園の戦いに巻き込まれていくことになる。