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「水星の魔女」の新味な魅力を分析!“決闘“システムが学園ドラマとガンダムシリーズの架け橋に

コラム

「水星の魔女」の新味な魅力を分析!“決闘“システムが学園ドラマとガンダムシリーズの架け橋に

「水星の魔女」における“ガンダム”の存在

これまでもガンダムの存在意義は作品によって異なってきたが、本作におけるガンダムは”忌み嫌われる存在”として描かれている。

事故やケガなどで人体の欠損した部分を補うための身体機能拡張技術「GUNDフォーマット」。この技術をモビルスーツの操縦に転用するために作られた、GUNDフォーマット搭載型のモビルスーツが「GUND-ARM」、通称“ガンダム”と呼ばれている。GUNDフォーマットを用いることで、モビルスーツのパイロットの意思に追従する性能が向上し、「ガンビット」と呼ばれる遠隔操作兵器が使用できるなど戦闘能力が上昇。だが、革新的な兵器である一方、そのシステムを使用すると機体とリンクした搭乗者の身体に大きな負担がかかってしまうという両刃の剣でもあった。

そうした危険性を踏まえて、生命倫理的な面からガンダムは、モビルスーツ開発評議会によって兵器としての使用を禁じられてしまい、禁忌に触れる研究をしていた開発者や関係者が「魔女」と呼ばれるなど、まさに「呪われた存在」となってしまっていた。作品タイトルに入っている「魔女」という言葉とガンダムという機体にはこうしたつながりがあるのだ。エアリアルは、GUNDフォーマットの特徴が発露しながらも、搭乗者であるスレッタの身体には影響を与えないという構造となっており、ほかのガンダムとは違う要素を持つことから、機体に隠された秘密が物語の大きな鍵となっていく。

こうしたガンダムシリーズらしい込み入った基礎設定がありつつも、「水星の魔女」がこれまでガンダムに触れてこなかった人々でも楽しむことができるのは、ドラマやキャラクターの魅力が大きい。

まるで乙女ゲームや少女漫画、シリーズらしさも外さないポイントを分析

ドラマの主軸となるのは、主人公たちの学園生活。アスティカシア高等専門学園は、モビルスーツ開発において、大きな力を持つ企業の推薦がないと入学することができず、結果そのほとんどが有力者とつながりがある学生たちで構成されている。つまり、お坊ちゃま&お嬢様学校が舞台。そこに水星という田舎から転入してきたコミュニケーションが苦手な女の子と、学園の権力の頂点に立つ人物の娘が出会う展開はキャラクターに共感しやすく、ある意味、少女マンガ的と言える。

その一方で、意地やプライド、利権などを賭けることができる、モビルスーツ同士による「決闘」というシステムが、学園ドラマとガンダムシリーズを融合させる架け橋となっている。決闘において協力し合うことで友情が育まれ、賭けるもののチョイスで決闘へ向かう者の内面を知り、決闘の勝敗でキャラクターの成長や変化が訪れる。この決闘というわかりやすいシステムこそが、シリーズを知らなくても楽しむことができる一つのポイントとなっている。

そして、もう一つのポイントが、企業=大人の物語。企業の後ろ盾という状況があるからこそ、学生がモビルスーツを運用することができるわけだが、これが単なる支援以上の”裏”が存在することが、作品にさらに深みを与えている。子どもたちの決闘は、大人たちにとっては自分たちの開発した兵器を代わりに運用し、ライバル社との性能を比較してくれる、いわば「代理戦争」。だからこそ通常の学園ものにはない、企業の理念や利権に注力した過酷で残酷な展開が描かれ、そうした要素が学園もののドラマをガンダムシリーズらしさにうまく転化していると言えるだろう。

親しみやすく、覚えやすいキャッチーなキャラデザイン

スレッタとミオリネが心を通わせ、互いに成長していく姿に心を打たれる
スレッタとミオリネが心を通わせ、互いに成長していく姿に心を打たれる[c]創通・サンライズ・MBS

また、本作の見やすさの特徴には、現代風のキャラクターデザインにもある。担当したのは、イラスト投稿サイト「pixiv」などで活躍し、ゲームのキャラクターデザインなども手掛けるイラストレーターのモグモ。過度な色気やクセ、美少年・美少女的な要素を取り入れないシンプルなデザインとなっている。それでいてキャラクターたちを特徴的なシルエットで描くアプローチ、制服の着こなしの違いをつけることで個性を際立たせ、学園ものながらキャラクターたちの見分けがつきやすくなっているのが秀逸だ。キャラクターの関係性に関しても、学校内に出自の違いによる差別が存在していること、主人公自身が不器用でコミュニケーション下手である点、友人だけでなく親子関係的な部分へスポットを当てていることも、絵柄のプレーンさと相まって、若いファンが理解しやすいポイントになっている。

新時代のガンダムを、新時代のバンドが彩る

さらに、若年層へのアピールという部分では、主題歌には「小説を音楽にするユニット」としてデビューし、話題となっているYOASOBI。彼女たちのコンセプトに合わせ、シリーズ構成と脚本を担当する大河内一楼が本作のプロローグと第1話の間をつなぐ物語として短編小説「ゆりかごの星」を執筆。それを原作として主題歌「祝福」が制作されるなど、主題歌の面から新たなファンが入りやすい空気を作っているのがわかる。

まだまだ間に合う!ガンダム未履修者にも推したい「水星の魔女」

初女性主人公&初学園ものとなった「水星の魔女」を紐解いていく
初女性主人公&初学園ものとなった「水星の魔女」を紐解いていく[c]創通・サンライズ・MBS

本編も第1クールのクライマックスに向けて大きく加速中。各種配信サービスなどでも楽しむことができるので、気になる人はぜひチェックしてみてほしい!

文/石井誠

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