『新感染』×『シン・ゴジラ』!?高度2万8000フィートの密室と地上の両方で戦う『非常宣言』のおもしろさ

コラム

『新感染』×『シン・ゴジラ』!?高度2万8000フィートの密室と地上の両方で戦う『非常宣言』のおもしろさ

ハワイ行きの飛行機でバイオテロを引き起こす犯人と、その恐怖に立ち向かう人々の奮闘を描く映画『非常宣言』(公開中)。韓国映画が描く感染パニックものという点で『新感染 ファイナル・エクスプレス』(17)を思わせる一方で、国家レベルのバイオテロに対処する地上の人々の戦いは『シン・ゴジラ』(16)のような様相もある。事件を巡って様々な人間模様が繰り広げられるなど、ジャンルの垣根を越えていいとこ取りしたような本作の注目ポイントをチェックしてみたい。

韓国2大スター&実力派キャストがそろい踏み『非常宣言』とは?

イノ刑事は、少しずつジンソクの動機に近づいていく(『非常宣言』)
イノ刑事は、少しずつジンソクの動機に近づいていく(『非常宣言』)[c] 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

飛行機恐怖症のパク・ジェヒョク(イ・ビョンホン)は娘を連れてハワイ行きの飛行機に乗るが、離陸後まもなく乗客が謎の死を遂げ、機内はパニックに。一方、地上では、飛行機をねらったバイオテロの犯行予告動画がアップされ、捜査担当のベテラン刑事ク・イノ(ソン・ガンホ)は、その飛行機に妻が乗っていることを知り、テロ発生の報せを受けた国土交通省大臣のキム・スッキ(チョン・ドヨン)は緊急着陸のために国内外との交渉を始める。そして副操縦士ヒョンス(キム・ナムギル)は機内の緊急事態を受け“非常宣言”を発動するが、その後も飛行機は次々と危機に見舞われる。

“大量虐殺”をもくろみ、ハワイ行きの飛行機に乗り込んだ男、ジンソクをイム・シワンが演じる(『非常宣言』)
“大量虐殺”をもくろみ、ハワイ行きの飛行機に乗り込んだ男、ジンソクをイム・シワンが演じる(『非常宣言』)[c] 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

出演するのは、韓国映画界を代表する2トップ。ガンホが妻思いのベテラン刑事役として地上で大奮闘すれば、ビョンホン演じる飛行機恐怖症の訳あり男が上空でストーリーを牽引し、見応えあるドラマに仕上げている。そんなトップスターたちはもちろん、本作で注目したいのは、バイオテロを仕掛ける男、ジンソク役のイム・シワン。日本では大ヒットドラマ「ミセン -未生-」で人気を博した彼が、背筋も凍るサイコパスを怪演して印象を残す。また「夫婦の世界」のクズ亭主で知られるパク・ヘジュンに、カメレオン俳優のナムギルなど、韓流ドラマ好きが目を留めたくなる面々が多数出演するなど、一大エンタメ作品に仕上がっている。

密閉された空間で起こるパニック

乗客の一人が感染し、苦しみながら死んでいく様子を見た乗客は恐怖に震える…(『非常宣言』)
乗客の一人が感染し、苦しみながら死んでいく様子を見た乗客は恐怖に震える…(『非常宣言』)[c] 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

時速300kmで疾走する特急列車内で謎のウイルスが感染拡大し、凶暴化した感染者が一気に押し寄せ、乗客が逃げ場を失っていく『新感染 ファイナル・エクスプレス』同様、『非常宣言』も密室パニック。ある理由から大量殺戮をもくろむテロリストが、飛行機の中に密かに持ち込んだ謎のウイルスを拡散させるところから物語が急展開を見せていく。常夏の楽園ハワイを楽しもうと浮き立っていた乗客たちが1人、2人と感染し、突如死に至る光景を目の当たりにする人々の恐怖は想像もできない。

感染者が蔓延した高速鉄道内は、逃げ惑う人々でパニック状態に…(『新感染 ファイナル・エクスプレス』)
感染者が蔓延した高速鉄道内は、逃げ惑う人々でパニック状態に…(『新感染 ファイナル・エクスプレス』)[c]Everett Collection/AFLO

しかも、『新感染』のように感染者に噛まれれば感染、というわけではなく、空気中を漂うウイルスを体内に取り込むだけで感染するため、機内サービスをするCAはもちろん、操縦室にいた機長も、ウイルスを避けるのは難しい状況。おまけに感染が起こっているのは“高度2万8000フィートの上空”。逃げ場などどこにもない。感染するかしないかという恐怖はもちろん、当然、燃料の限界も刻一刻と迫る。次から次へと新たな恐怖が押し寄せ、絶望の淵に追いやられては難を逃れ、直後にまた恐怖のどん底に突き落とされるのを繰り返す。見ているうちに、ジェットコースター的な恐怖のまっただ中に自らがいるような気になってしまう。


恐ろしいのはウイルスや燃料切れだけではない。感染者が増えていくと、隣の客が咳込んだだけで慌てふためき、感染者を隔離しろと騒ぎ立て、自分だけは助かろうとする者たちが現れる。その一方で、我が身を犠牲にしても乗客の命を守ろうとする乗務員や偶然乗り合わせた女医、感染が悪化していく仲間を励ます者たちの姿も。『新感染』同様、“悪者”の存在はお決まりの一つではあるものの、「自分もこっち側になってしまうのでは」と考えずにはいられない。

パニックに対処すべく、地上で奮闘する人々

巨大不明生物=ゴジラに官僚たちが立ち向かっていく『シン・ゴジラ』
巨大不明生物=ゴジラに官僚たちが立ち向かっていく『シン・ゴジラ』[c]Everett Collection/AFLO

パニックの中心にいる人々が描かれる一方で、飛行機内で発生したテロ事件を解決し、巻き込まれた乗客たちを救う方法を探る人々の視点でも描かれている本作。その様子は、人間の考えなど及ばぬ謎の巨大生物の対処を巡って奔走する官僚たちを主人公にした『シン・ゴジラ』を思わせる。

テロ予告のあった飛行機に妻が乗っていると知り、事件解決のために奔走する刑事イノをソン・ガンホが演じる(『非常宣言』)
テロ予告のあった飛行機に妻が乗っていると知り、事件解決のために奔走する刑事イノをソン・ガンホが演じる(『非常宣言』)[c] 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

地上で奮闘する一人である刑事イノが、バイオテロの予告動画で犯人の冷酷さを知った時には、妻はすでに該当の飛行機に乗り、上空2万8000フィートで恐怖にさらされていることを知る。刑事でありながら、愛する妻を救いたくても救えないというもどかしさや焦りが募るばかりで、そのジレンマは計り知れない。

国土交通省大臣のスッキは、乗客を救うため様々な交渉を行っていく(『非常宣言』)
国土交通省大臣のスッキは、乗客を救うため様々な交渉を行っていく(『非常宣言』)[c] 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

そしてもう一人は、国土交通省大臣のスッキ。事件発生を受けてすぐさま対策本部を立ち上げるも、大統領府から派遣された官僚は政府の思惑で動き、まったくあてにならない。なんとか緊急着陸させようと国内外に交渉を始めるが、人を死に至らしめるウイルスの感染者が多数乗った飛行機が、そう簡単に降りられるわけもない。それでも乗客、乗員たちを無事生還させようと、スッキは自分の“首”を懸けて孤軍奮闘する。はたして彼らの踏ん張りは奇跡を起こすのか。密室内とは異なり身を置いているのは安全圏だが、大勢の乗客たちの命が自分に懸かっている、という別のハラハラ、ドキドキに、手に汗を握らされてしまう。

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