「この映画をきっかけに、戦争・紛争を減らしたい」ドキュメンタリー映画『戦場記者』舞台挨拶で明かされる、“戦場報道”に懸けた想い
世界の紛争地を飛び回ってきた日本人記者の視点から、“戦場のいま”を映しだしたドキュメンタリー映画『戦場記者』(公開中)。本作の公開初日舞台挨拶が16日に角川シネマ有楽町にて開催され、メガホンをとった須賀川拓監督と、ジャーナリストの青木理、同じくジャーナリストの村山祐介が登壇。現在進行形で戦争が起きている危機的状況での戦場報道のあり方について語り合った。
TBSテレビに在籍し、JNN中東支局長としてロンドンを拠点に世界中を飛び回る特派員でもある須賀川監督は、この日の舞台挨拶のために緊急帰国。「こうして劇場に入ってみて最初に頭に浮かんだのは、取材に応じてくれたウクライナの人たちやアフガニスタンの人たちです。これだけたくさんの方たちに観ていただけていますよと伝えたいです」と、大入りの観客を前に感慨深げな表情を見せる。
この日初めて須賀川監督と対面した青木と村山は、それぞれ同業者ならではの視点で本作を絶賛。「記者が取材した9割近くはメモ帳のなかに消えていってしまう。それを新しいかたちで見てもらうとまた違うものになる。すばらしい取り組みだと思います」と青木は語り、村山も「気付くとアフガニスタンとかウクライナの戦場に一緒に連れていかれるような気になる。同じような現場で取材する立場として、ちょっと悔しい思いで見させていただきました」と語り、須賀川監督は「もっと厳しい言葉が来るんじゃないかと身構えていました…(笑)」と恐縮した様子で笑いを誘う。
そんななか青木は「メディアの環境が激変するなかで、国際報道は視聴率が取れないし新聞でも一番読まれていない。各社どんどん予算も人も減らす傾向にあるのですが、僕らはもちろんネット上の情報もほとんどが旧来のメディアを一次情報にしている。そうすると人々も世界の情報が分からなくて発想が内向きになってしまう。そうならないようにするためにも、この映画が我々日本のメディアが直接取材をする大切さを知る機会になると思います」と、国際報道の現状を解説しながら“現地取材”の重要性を訴える。
また村山も「今回の映画でなるほどなと思ったのは“伝え方”。須賀川監督のスタンスは最初から最後まで視聴者と同じ方向を向いている。取材のプロセスを全部さらけ出し、見ている人は一緒に状況を理解していく。これまではブラックボックスにされていて、出てきた情報が本当なのかフェイクなのか、その判断はテレビ局や新聞社のなかで処理されていた。プロセスが見えるようにできたことで、監督がそのような思いに至った過程が分かるし、見た人がそれぞれの考えを深めていくことが出来る」と力強く語った。
2人の話を受けて須賀川監督は「メディアに対する不信感が社会に蔓延している。これまでの報道はちょっと偉そうで、制限があって全部見せられなかったけれど、なんで信じてくれないのかという思いもありました。だったら全部プロセスを見せてしまえと。プロセスを見せることによって、切り取った部分が本当にそういうことなんだと一切湾曲したり誇張してないということを、もう一回信じてもらいたいという思いで取材しています」と自らの取材に対する信条を明かす。
そして「この映画は皆様に届けたいという思いがゴールなんですが、この先皆さまが人生のどこかで支援の懸け橋になるかもしれない、お子さんに話をするかもしれない、友人に話をするかもしれない、否定でも肯定でもどちらでも良いです。知ることによって次のムーブメントを起こすきっかけになります。この映画がきっかけになって、未来に起きる戦争・紛争を減らしたい。その力は絶対にあると思います。その最初のきっかけになって欲しいと思って作りました」と希望を込めながら舞台挨拶を締めくくった。
文/久保田 和馬