内田真礼が教える、吹替版『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の注目ポイント「感情が最高に伝わってくる」
「映画は大好きなので、すごく幸せなお仕事だなって思います」
海の部族は漁や素潜りを糧にしているため劇中には水中シーンが多い。海の中では手話やしぐさなど独特のコミュニケーションが中心になるため、些細な言いまわしにも注意した。「そのシーンのセリフがひとつしかない時は、ひと言で多くを伝えることが必要。だからちょっとした強弱も意識しないと、誤解されちゃうこともあるんです。もとの役者さんの声を聞きながら、演技や場に合わせた声を作ることを心掛けました」。
近年は『DUNE/デューン 砂の惑星』(20)や『トップガン マーヴェリック』(上映中)など次々にハリウッド大作でヒロインの吹替えを担当している内田。演じるうえでのポイントについて「作品を壊さないように、なおかつ日本語で聞きたい皆さんにお芝居として成立したものを伝えること」と語り、アニメとはまた違った責任感で臨んでいるという。「声が変わったことで、オリジナルのキャラクター性が失われてしまうのは本当に惜しいので、自らその世界に飛び込み、作品を愛する一員として参加することが大切」だと語る。その世界を愛することで、仕事のたびに好きな作品が増えていくと笑う。「映画は大好きなので、すごく幸せなお仕事だなって思います」。
ただし、吹替えならではの難しさにも直面している。「日本語のセリフと英語の口の動きが合わない時があるんです。基本的に“あ”の口の時に“た”や“さ”が入るようセリフが作られてはいるんです。でもどうしても動きと違うところが出るので、そこを合わせていくのが難しいんです」とプロフェッショナルなこだわりを覗かせる。そんな彼女が最も大切にしているのは観客の感覚。「大きい口が開いているのに声が小さくならないようにとか、なんか違うなって感じると気になってしまうので、そのあたりは気をつけています。でも人によって口の開け方が違うので、技術的には難しいですが、経験を重ねていくしかないと思います。そんなところは吹替えのおもしろさであり、難しいところでもあるとは思います」。
公開前の情報流出の対策がますます重要視される今日、吹替え作業の段階では、映像も自分が演じる役柄の姿以外は、隠された状態で流される。「海がどのくらい美しいのかもよくわからない。わかるのは水だなってくらいなんですよ(笑)」と内田。ディレクターと話しながらイメージを膨らませて演じるしかないために、実際に映画を観た時の感動はひとしおだとか。「ここが私たちの聖なる海なのよ、みたいに紹介するシーンがあるんです。収録時は見られないままで演じていましたが“こんな感じだったんだ!”と驚いたし感動しました」。
「ぜひ吹替版も体感してほしいですね」
映画の感想を聞くと「とにかく楽しかった」という。「どのシーンもキャラクターたちが躍動する姿にすごく心揺さぶされました」と振り返ったが、特に印象に残っているのはやはり海のシーンだ。「泳ぐシーンも、勢いあるとか綺麗というだけじゃなく、水中での息の苦しさや潜った時に“ん!”てなるあの感じ、水中の暗さとかすべて詰まってます。大きいスクリーンで観ると、自分が海の中にいるみたい」。そんな彼女にパンドラに行ってみたいか尋ねると「海が大好きなので行きたい!」との回答。ただし「海に入るのは遠慮します」という。「私、泳げないので映画館の中だけでいいかなと思ったり(笑)。でもはじめて海に行ったジェイク一家があれだけ海の中で泳げるなんてすごい。ナヴィって身体能力高いと思います」。
最後に声優目線で『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』吹替版の見どころを聞いてみた。「吹替キャストが本当に合っていることですね。収録の時にヘッドフォンの左からオリジナル原語、右から収録が終わった日本語キャストの声が聞こえてくるんですけど、ほとんど同じ声なんです。声質を含めてキャスティングされていたんだとわかります。東地(宏樹)さんのジェイクとか、時を経て前作と同じキャストで演じてくださっているところも、戻ってきたな感がすごい!」という彼女。しかしもっとも味わってほしいのは、ほとばしる感情だという。「セリフが日本語になることで、うれしさ、悲しさ、もちろん敵役のクオリッチ大佐の悪い感じも最高に伝わってきます(笑)。ぜひ吹替版も体感してほしいですね」。
取材・文/神武団四郎