アイドルをプロデュースして、先物取引で大儲け…痛快ビジネス時代劇『近江商人、走る!』で笑って学べ!
個性あふれる登場人物が画面を駆け回る
登場人物たちがみんな個性的で人間味にあふれているのも、本作に夢中になれる要因の一つだ。銀次は商人魂にあふれる熱い男ではなく、普段は飄々としているが、突然とんでもない閃きを言葉にする目が離せない不思議キャラ。大善屋の主人、伊左衛門は曲がったことが大嫌いな昔気質の商売人だが、その妻、朝陽(真飛聖)には頭が上がらない。娘の楓(黒木ひかり)はお団子を山ほど食べてしまうほど食欲旺盛で元気いっぱい。
銀次にすべての面で劣り、彼の才能を羨む先輩の蔵之介も物語をかき回すから見逃せず、現代のアイドルのような艶やかな着物を着て、ステージで歌い踊るお仙は明るくてかわいらしい。眼鏡売りの行商、有益(前野朋哉)も確かな腕を持つ親しみやすいキャラで、大工の佐助は喧嘩っ早く、その父親でもある大工の親方、岩男(渡辺裕之)は男気にあふれていてカッコいい。
もちろんヒール側も極悪を徹底させていて、息子の蔵之介をどつき倒し、悪の道に引きずり込む柏屋の主人、平蔵の腐り切った表情には思わず怒りがこみ上げる。地位と権力を振りかざす大津奉行の絵に描いたような悪党ぶりと、それを楽しそうに体現する堀部圭亮の濃~いキャラも際立っているからこそ、銀次たちを全力で応援したくなるのだ。
独自のユーモアに思わず笑ってしまうはず
それでいて、随所に笑いのエッセンスを散りばめられているのも本作の魅力。町民たちに自分のアイデアを披露する銀次の言動もどこかコミカルで、大善屋での客とのやりとりもユーモアにあふれている。眼鏡売りの有益は、お仙のステ―ジの前でオタ芸を炸裂。クライマックスでは、愉快な町民たちが赤と白の大きな旗を楽しそうに振り回していて、ギャグをかましている者もおり、油断していると吹きだしてしまうし、有益が作った望遠鏡の先にお笑い芸人のコウメ太夫がある役で登場する爆笑のサプライズも。
ほかにもお笑いの世界から、“とろサーモン”の村田秀亮が銀次の運命を変える薬売りの喜平役で、“アキラ100%”こと大橋彰が銀次の父親役で、たむらけんじが大善屋の客、孫太郎役で参戦。いつもの“笑い”を封印した彼らの真摯な芝居が、人情にあふれた本作をより味わい深いものにしている点にも注目したいところ。
さらに、銀次を妬み悪事に加担する先輩の蔵之介との愛憎渦巻くドラマと、2人がそれぞれの想いと本音をぶつけあう雨のシーンでは心を激しく揺さぶられる。そして、雪崩れ込むように突き進んだ終盤では、藤岡弘、が貫禄の芝居で体現した大津藩藩主が満を持して登場し、映画を鮮やかに締めくくるからたまらない。
これぞ、笑って泣けてスカッとする痛快時代劇エンタテインメント。お正月の初笑いにもオススメで、観るだけでやる気がふつふつと湧いてくる、新しい年の幕開けにピッタリの1本だ!
文/イソガイマサト