演技を超えた存在感に目を見張る『ファミリア』、イム・シワンの怪演に背筋が凍る『非常宣言』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、成島出が監督を務め、境遇を超えて家族になっていく人々のつながりを描くドラマ、韓国二大スターの共演でバイオテロに襲われた飛行機の恐怖を切り取るパニック映画、小さな村の村人たちが共同で馬主となり、競走馬へと夢や希望を託していくハートウォーミングストーリーの、人々のつながりが物語を動かす3本。
演技を超えた存在感に目を見張る…『ファミリア』(公開中)
陶器職人の男性と国際結婚したばかりで帰省中の海外赴任の息子が怪我した在日ブラジル青年を助けたことから始まる、思いがけない交流。海外で働くこと、あるいは逆に外国人が日本で暮らすことが珍しくない現代。子を思う親の気持ちは誰もが同じなのに、言葉や文化の違いから溝が生まれ、それが憎しみへと変わってしまうのはなぜなのか。実際に起きた人質テロ事件に加え、後継者がいない高齢化の進む町、移民が多く住む団地、ヘイトクライムなど、いま、日本が抱えている問題を盛り込み、これからの人々の在り方を考えさせられる。
ブラジル人の若者に扮したのはオーディションで選ばれたサガエルカス、ワケドファジレ。役所広司という日本を代表する名優を前に、初挑戦とは思えない堂々とした演技、いや演技を超えた存在感に目を見張る。彼らの友人役で出演するラップグループ、GREEN KIDSのFlight-Aことシマダアランも彼らの半生が透けて見えるようだ。(映画ライター・高山亜紀)
観終わっても胸のざわつきが収まらない…『非常宣言』(公開中)
ハワイに向かう旅客機内に仕掛けられたバイオテロを機に始まるパニックスリラー。上空2万8000フィートという究極の密室で謎のウィルスと墜落の恐怖に脅える人々と、地上で事態を収拾すべく奔走する人々を同時進行で描く。いまの時代、目に見えないウイルスの感染というだけでリアルに感じる恐怖を、韓国映画界を代表するイ・ビョンホンとソン・ガンホが体現。ともに愛する娘、妻を守るため平凡な男が一世一代の力を尽くす。
完全無欠なヒーローキャラで鳴らしてきたビョンホンの気弱なパパからの変貌ぶりと、愚直一徹なガンホ演じるベテラン刑事の最後の決断には泣ける。そんなエモいドラマの一方で、旅客機の受け入れをめぐって国家間の駆け引きなどは観終わっても胸のざわつきが収まらず、現実を想起せずにはいられない。また冷酷非道な犯人役のイム・シワンも印象的。名作ドラマ「ミセン -未生-」の主演で知られる彼が、能面のような表情で見せた怪演には背筋が凍った。(映画ライター・前田かおり)
見事ギャフンと言わせる胸のすく展開に快哉!『ドリーム・ホース』(公開中)
イギリス・ウェールズ、谷あいの小さな村。介護と仕事で色褪せた人生を送っていた主婦が、フと耳にした話から競走馬を育てることを思いつき、馬を購入。村のみんなに共同で馬主になろうと呼びかける。“ドリームアライアンス”と名付けられた馬は、やがてみんなの夢を乗せてレースを目指す――。
“奇跡の実話”と銘打たれているだけに結末は推して知るべしだが、それでも余りある感動とお愉しみを与えてくれる。「欲しいのは儲けではなく、胸の高鳴り」というモチベーションも心憎い。もっとも、馬が調子を崩すたび、出資金がどうこうと共同体は揺れるのだが…。緑が濃いウェールズの田園風景、子馬の愛らしさ、愛情を注いだ馬との間で育まれる信頼関係、走る姿の美しさ。そして共同体内外の“あるある” な人間関係など、いろんな魅力がバランスよく詰まっている。なにより、田舎者とバカにしていた競馬界――馬主やエリート競走馬の育成団体らを、見事ギャフンと言わせる胸のすく展開に快哉!最後はもう、踊り出したくなるハズ。
『フル・モンティ』(97)など、イギリス労働者階級の一発逆転“町/村おこし”コメディが好きな人に、大おススメ。ジャンを演じるのは、『ヘレディタリー/継承』(18)のトニ・コレット。(映画ライター・折田千鶴子)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼