盗聴器で“よそ者”を徹底監視…村社会の異常さにゾワゾワする「ガンニバル」第4話レビュー
新人監督とは思えない人間の悪意と闇を見せつける演出
そんな村人たちの豹変ぶりを丁寧に映しだしたのは、1~3話の片山監督からバトンを受け継いだ川井隼人監督。『ドライブ・マイ・カー』や『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(21)などの助監督出身の川井監督は、監督としてのキャリアは浅いはずだが、そうとは思えないじっくり腰を落とした堂々とした演出で、片山監督が作り上げた「ガンニバル」の世界観をしっかり受け継ぎながら、表と裏がある人間の悪意と闇を見せつけていてすばらしい。
なかでも、供花村で味わった恐怖のせいで狂ってしまった狩野の妻(片岡礼子)が病院で暴れるシーンとカットバックさせる形で、村人たちの不穏な動きを見せていくところは鮮やか!それらは村人の誰もが、大悟一家を監視していることを示している。さぶも双眼鏡で大悟の家を覗き、家に仕掛けた盗聴器の音声を聞きながらニヤニヤとほくそ笑んでいて、さぶや村人たちの親切や大悟たちへの冷たい眼差しが、決して村のルールに背いたからではないことを一瞬にしてわからせる。
後藤恵介(笠松将)の「(村人たちのことを)あんまり信用せんほうがいい」という言葉も、川井監督がねらいすまして挿入したクモが獲物の周りを動き回る映像も、村人たちが隠している恐ろしい本性を強調する。そう言われて冷静に振り返ると、彼らの助言や忠告も脅迫めいたものにも感じられるようになり、いつもタイミングよく現れるさぶなんてなにを考えているのかわからない危険な人物に姿を変え、前3話までとはまた違った恐怖を立ち上がらせるのだ。
しかも、そんなさぶを『孤狼の血 LEVEL2』(21)でも観る者をまんまと欺いた中村梅雀が実に楽しそうに、飄々と演じていて、なにが起きているのかますますわからなくなる。こうして、供花村全体が黒い闇に包まれているような感じがしてくるのが第4話の怖いところだ。
後藤家の人間たちも人智を超えた恐ろしい習性を持っているが、そのほかの村人たちもよそ者には決して明かさない別の顔を持っている。供花村出身の本庁の署長(利重剛)もなにか知っているのに、多くを語ろうとしない。いずれにしても、はっきり言えるのは、大悟と妻の有希(吉岡里帆)、ましろだけがほかの土地から移住してきたよそ者で、誰が敵で誰が味方かもわからない八方塞がりの極限的な状況に立たされているという事実だ。
おぞましい証拠を刻まれた謎の男の姿に戦慄…
大悟が自身の内なる狂気と折り合いをつけながら、そんな窮地をどう乗り越え、見えない敵とどう戦うのか?それを考えただけでもワクワクドキドキするのに、第4話のクライマックスではドラマの核心に迫る新たな衝撃のサプライズをまたもや用意し、観る者を戦慄させる。
大悟の携帯にかかってきた謎の男(高杉真宙)からの電話。俯瞰のショットが捉えた男の潜伏場所へと続く気持ち悪いくらいに曲がりくねった山道、現れたその男の表情をなかなか確認させない川井監督の演出とカット割り、男に扮した高杉のどこか不気味な顔としゃべりにくそうな発声がゾワゾワ感を増幅させる。そして男は「狩野さんは喰い殺された。僕は“彼ら”が隠している秘密を知っている人間です。僕が証拠なんです」と言うが、視覚的に明かされる“証拠”を観た瞬間に背筋が凍りつくし、目を背けた人もいるだろう。
果たしてこの男は何者で、おぞましい証拠を刻んだ“彼ら”とは誰なのか?様相を次々変える予想不可能な展開のなか、新たな事実に反して闇が深まり、大悟もどんどん常軌を逸していく。膨れ上がる恐怖とスリル、言い知れぬ狂気が、怒涛の後半への期待を加速させるのは間違いない!
文/イソガイマサト