舞台芸術の新たな可能性を探る!「天王洲電市(てんのうずでんいち)~記録は感情を通電させる~」が開催
舞台芸術のアーカイブをオンラインで閲覧可能にし、舞台芸術をより身近に、そして未来へつなげる様々な活動を行っている「EPAD」。MOVIE WALKER PRESSはEPADの取り組みに賛同し、スペシャルサイトをオープン。「普段映画を観るように、気軽に舞台を楽しんでほしい!」という想いのもと「初心者におすすめの舞台作品は?」「どんなアーカイブがあるの?」など、舞台芸術の楽しみ方を提案します。
そんなEPADが、1月20日(金)~21日(土)の2日間、東京・天王洲のイベントスペース「E HALL」とオンラインで、舞台芸術の可能性を考えるイベント「天王洲電市(てんのうずでんいち)~記録は感情を通電させる~」を開催。バラエティに富んだ舞台芸術映像の上映会や、各分野の専門家が舞台芸術の可能性をディスカッションするオンライントークなど、興味深い催しが行われる。「製作者と視聴者、過去と未来が交わる“市場”を目指す」という、本イベントの見どころを紹介していこう。
舞台芸術を未来につなげる!EPADの活動内容とは?
EPAD(緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業)は2020年、文化庁の文化芸術収益力強化事業の一環として、寺田倉庫と緊急事態舞台芸術ネットワークの共催でスタート。コロナ禍における舞台芸術業界の緊急支援を目的に、各上演主体が持つ記録映像を収集し、その収集対価および配信可能化作品の権利対価を支払うことで、舞台関係者への経済支援を行った。
また舞台公演映像の配信可能化に向け権利処理チームを設置し、舞台芸術の権利処理ルールも標準化。煩雑な権利処理のサポートをすることで配信可能化作品を多く送り出し、上演主体や関係者たちへの利益還元につなげた。さらに、公演映像をはじめとした貴重な資料の収集・保存に加え、8K+Dolby Atmosといった最新技術、高品質機材での新規作品収録事業を行うなど、「ここでしか観られない」演劇をより多くの観客に開き、アーカイブを未来へつなげていく新しい試みを続けている。今回のイベントで行われる上映会では、2日間で7作品の舞台映像が上映され、303インチの大画面と大音量に加え、8K+Dolby Atmosという高品質な映像で舞台映像を心ゆくまで楽しむことができる。いずれも無料、事前申込制となっている。
高品質な舞台映像を体験できる!注目の上映イベント
20日に上映されるのは、いずれも2022年に上演された作品を高品質収録した映像だ。沖縄戦に動員された少女たちの日常と戦禍を描くマームとジプシー「cocoon」。イプセンの原作を生演奏による躍動感あふれる音楽劇に仕立てたSPAC「ペール・ギュント」(ともに8K+Dolby Atmos)。KAATキッズプログラム「さいごの1つ前」は、松井周演出、白石加代子主演。天国と地獄の手前で、記憶にまつわる物語が繰り広げられる。
21日には、幻の作品を含むバラエティに富んだ4作が上映。「ジャガーの眼」は、唐十郎率いる状況劇場の代表作の一つで、1985年公演版を上映する。能楽協会「能 羽衣」は、沖縄ガンガラーの谷で天女が舞う洞窟能。ドキュメンタリー「コロナ、地方都市、芸術祭:豊岡演劇祭 2021-2022(ラフカット短縮版)」は、平田オリザがフェスティバルディレクターを務めた演劇祭の裏側に迫る。スターダンサーズ・バレエ団「くるみ割り人形」は、クリスマスの奇跡を描いた人気演目を8K+Dolby Atmosの高品質映像で楽しめる。最新技術で収録された新作から幻の名作、自然を舞台にした伝統芸能まで、権利や上演環境などの様々な理由で目に触れることが難しい貴重な映像の数々を、没入感のある視聴環境で味わってほしい。
舞台芸術の可能性を考える、専門家たちによるオンライントークイベントも
合わせてイベント内で開催されるオンライントークは、無料・申込不要で視聴することができる。こちらには演出家をはじめとした舞台関係者や、映像アーカイブ・舞台芸術における権利処理の専門家らが登壇。舞台芸術を記録・収集・配信する重要性、舞台・演劇ファン以外の幅広い層に鑑賞機会を提供する意義、映像配信に伴う権利処理に関する困難や問題などについて検証。ときに小説やゲームといった他ジャンルにも接続しながら多岐にわたるトークは、舞台芸術の歴史と現在地を見せながら、未来へつながる様々な可能性を見せてくれるはずだ。
また会期中のE HALLでは会場内展示も行われる。EPADでは、バリアフリー対応プラットフォーム「THEATRE for ALL」との連携による、視聴覚障がい用の音声ガイドや字幕の制作にも取り組んでいるが、上映会会場では「さいごの1つ前」の事例をサンプルとして展示予定だ。「THEATRE for ALL」では、EPADから選出された5作品がバリアフリー対応映像として配信を予定している。
環境や条件のハードルを越え、舞台芸術をさまざまな観客へ届けてきたEPADの試み。今回の「天王洲電市」は、舞台芸術と観客を新しい形で交差させる機会となるはずだ。
文/北原美那
■上映会(無料・事前申し込み制)
2023年1月20日(金)12:50〜21:00
12:50- マームとジプシー「cocoon」(2022年)8K+DolbyAtmos
16:45- SPAC「ペール・ギュント」(2022年)8K+DolbyAtmos
19:30- KAATキッズプログラム「さいごの1つ前」(2022年)2K+DolbyAtmos
2023年1月21日(土)10:00〜17:00
10:00- 状況劇場「ジャガーの眼」(1985年)2K+ステレオ
12:30- 能楽協会「能羽衣」沖縄ガンガラーの谷公演における(洞窟能)(2022年)4K+ステレオ
13:30- ドキュメンタリー「コロナ、地方都市、芸術祭:豊岡演劇祭2021-2022(ラフカット短縮版)」(2022年)4K+ステレオ
15:30- スターダンサーズ・バレエ団「くるみ割り人形」(2022年)8K+DolbyAtmos
■オンライントークイベント(無料・申込不要)
2023年1月20日(金)13:30〜21:30
13:30〜15:00「EPADの活動とビジョン」
福井健策(骨董通り法律事務所/EPAD実行委員会/緊急事態舞台芸術ネットワーク)、吉見俊哉(デジタルアーカイブ学会/東京大学)、横堀ふみ(NPO法人DANCE BOX)、伊藤達哉(EPAD実行委員会/緊急事態舞台芸術ネットワーク/ゴーチ・ブラザーズ)、司会:徳永京子(演劇ジャーナリスト)
16:00〜17:00「舞台芸術映像をめぐるEPAD権利処理事例」
田島佑規(骨董通り法律事務所)、城田晴栄(株式会社ループホール)ほか
18:00〜19:00「時代性とアーカイブとの緊張関係」
藤田貴大(マームとジプシー)、村田沙耶香(小説家)、細馬宏通(行動学者)、司会:山本充(編集者)
20:00〜21:30「アーカイブの利活用について〜公立施設の視点から〜」
宮城聰(SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督)、長塚圭史(KAAT神奈川芸術劇場芸術監督/阿佐ヶ谷スパイダース)、松浦茂之(三重県文化会館)、司会:三好佐智子(EPAD実行委員会)
2023年1月21日(土)12:00〜15:00
12:00〜13:00「アーカイブ利用の可能性とは状況劇場の秘蔵映像を巡って〜」
久保井研(唐組)、カニエ・ナハ(詩人)、久保仁志(慶應義塾大学アート・センター)、司会:三好佐智子(EPAD実行委員会)
13:30〜15:00「アーカイブ(ゲーム・アニメ舞台芸術)の向かう未来」
赤松健(漫画家/参議院議員)松田誠(ネルケプランニングファウンダー)、植野淳子(日本のアニメ総合データベース「アニメ大全」プロデューサー)、司会:福井健策(骨董通り法律事務所/EPAD実行委員会/緊急事態舞台芸術ネットワーク)