南沙良、ミニシアターを巡る Vol.30 Stranger(後編) - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
南沙良、ミニシアターを巡る Vol.30 Stranger(後編)

コラム

南沙良、ミニシアターを巡る Vol.30 Stranger(後編)

「コロナ禍になり『映画、来てるな』と感じた」(岡村)

撮影/杉映貴子

(カフェで着席、改めて話を聞く)

南「オープンは2022年9月16日。つい先日なんですね(※取材日は2022年9月23日)。改めて、なぜ新しく映画館を作ろうと考えたんですか?」

岡村「僕、若いころからずっと映画関係の仕事をしていました。映画館でもぎりのバイト、配給会社、東京国際映画祭のスタッフ、黒沢清監督や堤幸彦監督の現場にいたこともあります」

南「すごいですね。川上から川下まで」

岡村「本当は自分で映画を作りたかったんです。でもある時、このまま現場にいても映画作家にはなれないなと思い、映画雑誌を作ろうと独学でデザインを学びました。その後デザイン会社勤務を経て、いろんな成り行きで、自分で会社をやることになりました。ただ45歳になって、コロナ禍にもなり、自分はこの先、なにを成し遂げられるかなあって考えたんですよ。夢中になれることってなんだろうと」

南「それが映画館だった」

岡村「はい。ほかの人よりも経験のある映画と、会社としてやっていたブランディングデザインを結び付けられないかなと。ある時、TCC試写室っていう地下の秘密基地みたいな(笑)試写室に行く機会があったんですが、そこが40席くらいの小さなところで。それくらいの大きさだったら映画館って作れるんじゃないか、と思っちゃったんです」

南「strangerは49席ですね。ちなみに、それっていつごろの話ですか?」

岡村「2021年の11月です」

南「えっ!そこから準備を始めて、2022年9月にもうオープンですか!?早い!」

岡村「そうなんですよ。思い立ったらすぐ、配給会社や劇場支配人の方20人くらいに、教えを乞うためインタビューして回りました。先日南さんがこの連載で行かれた池袋の新文芸坐の花俟さんも、快くお話ししてくれましたよ」

南「ただ、2021年はコロナ禍が続いていて、ミニシアターはどこも苦戦中だったと思うんですが、なぜまたこのタイミングで?」

岡村「ずっと仕事と育児に追われていて、配信も含めてあまり映画を観ていない時期が続いてたんです。だけどコロナ禍になって、再び映画を観始めるようになりました。そこで感じたんですよ。『映画、来てるな』って」

南「来てる?」

岡村「シャンタル・アケルマン特集とかジャック・リヴェット特集とかロベール・ブレッソン特集に、すごくお客さんが入ってたんです。若い人たちや、そんなにアカデミックなことをご存知ない方の中にも、映画作家の作品を体系的に観たいという人たちがいるんだなと。それに、いまは配信でどんな映画も観られそうに見えて、実は配信されてない映画もたくさんありますし」

南「そうなんですか」

岡村「はい。配信されてないものを観たいというニーズはあるはずなので、その辺をピンポイントでやっていけば、映画館として成立させられるだろうと。そのうえで、映画館という前時代的なコミュニケーションの場所を現代的にアップデートできれば、コロナ禍の逆風でもなにかを打破できるんじゃないかって」

南「現代的なアップデートのひとつが、先ほどおっしゃっていた『交流できる場所』だということですか」

岡村「ええ。お客さんと一定の距離を保って丁寧に接するというだけが、いまの時代の丁寧な対応じゃない。レコード屋やスケボーショップに行くと、買い物してる時間は10分なのに、その後1時間も延々とお客さんと店員が立ち話で情報交換をしてたりするじゃないですか。下手すると、ほかの店で買ったレコードを持ってきて『これ今日買ったんすよ』とか」

南「あはは(笑)」

岡村「うちもそれでいいと思ってるんですよ。いま新宿で『トップガン マーヴェリック』観てきたんですよ、って話しかけてくれても」


撮影/杉映貴子
●Stranger
公式サイト https://stranger.jp/
住所 東京都墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F
電話 080-5295-0597
最寄駅 都営新宿線 菊川駅

●南沙良 プロフィール
2002年6月11日生まれ、東京都出身。第18回ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞、その後同誌専属モデルを務める。
女優としては、映画『幼な子われらに生まれ』(17)に出演し、デビュー作ながらも、報知映画賞、ブルーリボン賞・新人賞にノミネート。2018年公開の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)では映画初主演ながらも、第43回報知映画賞・新人賞、第61回ブルーリボン賞・新人賞、第33回高崎映画祭・最優秀新人女優賞、第28回日本映画批評家大賞・新人女優賞を受賞し、その演技力が業界関係者から高く評価される。2021年には、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021のニューウェーブアワードを受賞。
最近の主な出演作に『ゾッキ』(21)、『彼女』(21)、『女子高生に殺されたい』(22)、MIRRORLIAR FILMS Season3『沙良ちゃんの休日』(22)、『この子は邪悪』(22)、ドラマ「ドラゴン桜」、「鎌倉殿の13人」、「セイコグラム~転生したら戦時中の女学生だった件」、「女神の教室〜リーガル青春白書〜」など。待機作に、Netflixで3月配信予定の「君に届け」などがある。
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