舞台芸術を新たな視点で楽しめる!おすすめのドキュメンタリー作品を一挙紹介
作り手の人となりや生き様など“人を知る”
舞台芸術の魅力はなにかと問われて、生身の人間が目の前にいることだと答える人は多いだろう。しかしその「生身の人間」のことを観客はどれだけ知っているだろうか。舞台からはうかがい知れない、作り手の人となりや生き様を知ることができるのも、ドキュメンタリーのおもしろさの一つだ。
だが、ドキュメンタリー「Koji Return」は「俳優のドキュメンタリー」と言われて多くの人が想像するものからは大きく異なっている。なぜならこの作品は、劇団FAIFAIに所属する俳優・山崎皓司が地元の静岡に帰郷し「百姓」として生きる様子を映したものだからだ。ここでいう「百姓」とは農家のことではなく(いやその意味も含むのだが)、百の姓、つまりは百の仕事を持つ者を指す。山崎は畑を耕し、狩りをし、友人の仕事を手伝い、物々交換をし、そして俳優として舞台に立ちながらできるかぎり自給自足の生活を営もうとする。「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という宮沢賢治の言葉を受けて「世界全体の幸福」とはなにかを問い、それを実現するための実践として百姓たらんとする山崎の姿は、チャーミングでありながらどこまでも真摯だ。
作り手の思考や歴史といった“背景を知る”
芸術の楽しみ方は人それぞれ。しかし背景を知ることでより作品を楽しめる場合もある。「ダンスの系譜学ドキュメンタリー」が追うのは「ダンスの系譜学」というコンテンポラリーダンスの企画。世界的に活躍する3名のダンサー、安藤洋子、酒井はな、中村恩恵がバレエの歴史を踏まえたうえでそれぞれ「振付の原点」と「振付の継承/再構築」となる2作品を踊る意欲的な取り組みだ。
たとえば酒井が踊る「瀕死の白鳥 その死の真相」はバレエ作品の小品「瀕死の白鳥」を踏まえた新作なのだが、そこではタイトルの通り白鳥の死因(なんと環境破壊!)が語られることになる。配信されている映像だけでも十分に楽しめる作品だが、作り手の思考や背景を知ることで見えてくるものもあるはずだ。そうして「芸」に対する自らの「目」を鍛えていくことも、舞台芸術を見る愉しみのうちだろう。
舞台芸術の上演には準備のための長い時間が必要であり、舞台の上には決して現れないその時間は、作品それ自体と同じかそれ以上に豊かなものであったりもする。ドキュメンタリーが映しだすその豊かな時間は、見ることにとどまらない舞台芸術の喜びを教えてくれるはずだ。
文/山﨑健太