授賞式の夜を涙と歓声に包んだ、ミシェル・ヨー&キー・ホイ・クァン。第80回ゴールデン・グローブ賞を総括
会場で見ていて、この夜最も大きな歓声とスタンディングオベーションで迎えられたのは、ミュージカル/コメディ部門主演女優賞のミシェル・ヨーだった。「40年間、このステージに立つまで、険しい旅路でした。それには意味があったと思います。ハリウッドに呼ばれて、夢が叶ったと思いました。でも『君はマイノリティだ』と言われ、これは夢だったんだと気づきました」と40年前の思い出を述べた。
そして、女性は年齢を重ねるごとに機会は減っていくもので、いままで仕事をしてきたすばらしいクリエイターとの縁に感謝しようと思っていたが、この『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の特別な役をオファーされたと言ったところで、スピーチを終える合図の音楽が流れた。咄嗟に「止めてちょうだい、やっつけることもできるんだから。本気よ!」と喝を入れ、場内を大爆笑させた。ミシェル・ヨーが受賞した瞬間に雄叫びをあげるように歓喜したジェイミー・リー・カーティスの姿は、ネット上のバイラルになった。
テレビ業界で業績を納めた才能に贈られるキャロル・バーネット賞を受賞したプロデューサーのライアン・マーフィはスピーチの中で、自身が手がけたドラマの出演者たちが、エンターテインメントの仕事に就く前にアメリカの小さな町で、マイノリティたる所以の葛藤を抱えていたことを紹介した。その中には、テレビ放送されなかった第79回ゴールデングローブ賞で、トランスジェンダーの女性として初めてドラマシリーズ部門主演女優賞を受賞したMJ・ロドリゲス(「POSE /ポーズ」)がいて、スタンディングオベーションが起きた。マーフィーは、誰も祝うことができなかった昨年の大きな功績にスポットライトを当てるために、マーフィーがこの場に立ったことが明らかだった。
日本でも大ヒットしている『RRR』は、『Naatu Naatu』でインド映画として初めて、ゴールデングローブ賞歌曲賞を受賞した。アメコミ原作映画として初のメジャー映画賞ノミネート、そして映画部門助演女優賞を受賞したアンジェラ・バセットは、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』で「私たちは、カメラの内外で真の団結、リーダーシップ、愛とはと世界に訴えました」と、亡きチャドウィック・ボーズマンを讃えながら語った。テレビ部門ミュージカル/コメディ部門主演男優賞のジェレミー・アレン・ホワイト(「一流シェフのファミリー・レストラン」)は、驚きのあまり「サンキュー」を連発し、「演じることが大好きです!」とスピーチを締めた。これらの最初の栄光は、彼らのキャリアにおいて大きな意味を持つものになるかもしれない。だが、キー・ホイ・クァンのようにそれ故に悩むことにもなるかもしれない。
この日、華やかなレッドカーペットでは、各局のリポーターによるスターのインタビューが行われていた。Netflixの「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」で主人公ダーマーの父親役を演じ、テレビ部門助演男優賞にノミネートされていたリチャード・ジェンキンスは、取材陣にこう答えた。「誰でも、2度目のチャンスを与えられるべきです。それが、私がここに立っている理由です」。この夜語られたすばらしいスピーチの通り、分断ではなく団結、1度目のチャンスを与えてくれた人に感謝し、惜しまぬ努力には喜んで2度目のチャンスを贈ろうというハリウッドの美徳が感じられた。2021年以降批判に晒されてきたHFPAとゴールデングローブ賞は、ハリウッドの通例に倣い2度目のチャンスを与えられたということだろう。