アカデミー賞目前!本年度の映画賞レースを賑わせた注目作5本をピックアップ
いよいよ3月13日(現地時間12日)に迫った第95回アカデミー賞授賞式。いったいどの作品がオスカーを獲るのか気になるところだが、ここであらためて、アカデミー賞前哨戦でもあるゴールデン・グローブ賞など、既に各映画賞や映画祭で話題となった5作品を振り返ってみよう(インシアターマガジン「月刊シネコンウォーカー」2月号掲載の特集より)。
稀代のフィルムメーカー、スピルバーグの原体験が紡ぐ物語…『フェイブルマンズ』(公開中)
『E.T.』(82)、『ジュラシック・パーク』(93)をはじめ、数々の名作&大ヒット作を世に送り出してきた巨匠スティーヴン・スピルバーグの最新作は、彼自身の少年時代をベースにした自伝的な物語。映画監督になるという夢を追い求めた主人公の軌跡を、ノスタルジックな味わいの映像美で紡ぎ上げた。
1950年代、フェイブルマン家の幼い少年サミーが、初めて訪れた映画館で“映画”のすばらしさに心を奪われる。やがて8mmカメラで映画作りに熱中するようになったサミーは、引っ越しや両親との葛藤など様々な出来事を経験しながら成長し、無限の可能性に満ちた未来を切り開いていく。
約半世紀にわたってハリウッドの頂点に君臨してきたスピルバーグが、これまでで最もパーソナルなテーマと向き合ったこの青春ストーリーには、あらゆる観客の共感を誘うであろうエピソードが詰まっている。愛おしくもせつない家族との関係、ユーモラスで胸弾む映画作りと学園生活の日々。そして主人公サミーが直面する幾多のターニングポイントを通して、スピルバーグはいかにして映画と恋に落ちたのか、彼の豊かな感性はどのように育まれたかを垣間見ることができる。スクリーンに鮮やかにきらめく、天才監督の原体験を堪能しよう!
〈ノミネート・受賞状況は…〉
トロント国際映画祭で観客賞を受賞。ゴールデン・グローブ賞の作品賞(ドラマ部門)、監督賞を受賞。クリティクス・チョイス・アワード(放送映画批評家協会賞)でガブリエル・ラベルが若手俳優賞を受賞している。アカデミー賞では作品賞を含む主要7部門にノミネート。
“精霊が舞い降りる島”で起こる悲喜劇。友情の行方は…『イニシェリン島の精霊』(公開中)
5年前、アカデミー賞で2部門を受賞した『スリー・ビルボード』(17)に続き、またも映画賞レースを賑わせる。マーティン・マクドナー監督の止まらぬ勢いを実感させるのが、この新作だ。アイルランドの架空の島を舞台に、一緒にパブで飲むことが日課だった男たち、パードリック(コリン・ファレル)とコルム(ブレンダン・グリーソン)の関係が壊れていくドラマ。コルムからの一方的な絶縁宣言に戸惑うばかりのパードリック。やがてコルムは予想外の行動を見せ、周囲の人物も絡んで衝撃的な運命へなだれ込んでいく。
なぜ長年の友情は失われたのか。その謎に巻き込まれ、一瞬も目が離せない緊迫感が続く。思わず背筋が凍る場面や不思議なユーモア。アイルランドの島の幻想的な美しさに心揺さぶる音楽が重なり、本作で数々の主演男優賞に輝くコリン・ファレルら俳優たちの渾身の演技…と、多くの見どころが絶妙に溶け合う未体験の余韻が待つ!
〈ノミネート・受賞状況は…〉
ヴェネチア国際映画祭で脚本賞・ヴォルピ杯男優賞2冠。ゴールデン・グローブ賞では作品賞、主演男優賞、脚本賞と最多3冠を受賞している。アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞など9部門にノミネート。
80年代の映画館を舞台に描かれる傷を抱えた人々の愛と絆…『エンパイア・オブ・ライト』(公開中)
アカデミー賞で作品賞・監督賞などを受賞した『アメリカン・ビューティー』(99)以来、常に高評価の作品を届け続けるサム・メンデス監督。演劇界出身で、映画界でも頂点を極めた彼が、映画という文化への個人的な思いを込めた作品を完成させた。
1980年、イギリスの海辺の町で、人々に愛された老舗の映画館、エンパイア劇場。マネージャーのヒラリー(オリヴィア・コールマン)を中心にした濃密な人間ドラマが、映画へのあふれる愛と共に描かれる。『炎のランナー』など80年代の名作が物語を彩り、当時の映写のこだわり、観客の喜びなど、映画ファンの心をくすぐる要素がたっぷり。“光の帝国”というタイトルどおり、名カメラマン、ロジャー・ディーキンスによる映像美にも陶酔する。ヒラリーの抱えるトラウマ、根深い人種差別などもキーポイントになり、登場人物たちの人生に希望が見える瞬間、映画の奇跡を実感できるはず!
〈ノミネート・受賞状況は…〉
オリヴィア・コールマンがゴールデン・グローブ賞(ドラマ部門)で主演女優賞候補に。トロント国際映画祭ではトリビュート・アワード監督賞を受賞した。アカデミー賞では撮影賞にノミネート。